10/30(月)、日本映画監督協会新人賞、上映とシンポジウム『ケンとカズ』の上映後、小路紘史監督、エドモンド・ヨウ監督をお迎えし、シンポジウム が行われました。⇒作品詳細
Q:お互いの作品について
エドモンド・ヨウ監督:『ケンとカズ』は本当に素晴らしい映画だと思いました。我々はヤクザ映画というのは、高倉健さんに象徴されるような非常に派手なギャング映画というものを見慣れています。『ケンとカズ』は、2人の主人公がそれぞれ一人の人間としての悩みを抱えている。日々の生活の中でだんだんとヤクザの世界に入ってしまう。カズという主人公は、最初は冷たくて嫌な奴だなと思いますが、実は母親に対する愛情を持っているという一面が見えます。私は特にカズと彼女とのシーンを気に入っております。毎日、自動車工場などで送っている生活からすると、彼女との時間はオアシスのような素晴らしい時間であるというところが、非常に上手に描かれているなと思いました。
私達、映画を作る人間として、アートとエンターテインメントのバランスをとりながらと常日頃思うのですが、それを取り込むのはなかなか難しいです。このようにうまくバランスを取りながら作った作品ということで、ますます次回が楽しみですね。
小路紘史監督:エドモンド・ヨウ監督の『アケラット ロヒンギャの祈り』は、女性が主人公の映画で、ずっとカメラが彼女を追っていて、観ていてハラハラするような映画でした。観ていくうちに、この人もやはり社会の中でもがいている人なんだ、というところがわかります。ずっとその人物の顔を映すという、カメラの意図が印象的でした。『ケンとカズ』にすごく似ている部分もありましたね。人物の心情を描く部分でしょうか。映画祭での上映後のQ&Aでも主人公にセリフで語らせない、表情で語ってくれという演出をされたと聞いたのですが、まさにそのような映画で、本当に素晴らしいと思いました。
Q:作品の共通点について
エドモンド・ヨウ監督:今、小路監督がおっしゃったように、本当に似ているところがあります。もがいているという題材のところで非常に似ていると思います。私達は全く違う2つの国から来ていて、今回お会いしたのも初めてなんですが、似たような題材を考えて映画作りをしていたのだなと思いました。映画というものはもちろんエンターテイメント性もあればアートという側面で映し出していくということもありますが、このように映画を通して、底辺でもがいている人たちの声を、皆さんに知っていただくという時代がやってきたのかなという気もします。
Q:小路監督は『ケンとカズ』で海外の映画祭を回られましたが、その経験から、何か感じたことはありますか?
小路紘史監督:2015年の東京国際映画祭でアダム・トレルというイギリスのプロデューサーがこの作品を気に入ってくれて、いろいろな映画祭にブッキングしてくれたおかげでした。
海外の映画祭で、そこからさらに現地で日本映画を上映して、配給までしないと、その先の展望があまり見えてこないな、と思いました。それとは反対に、その前に日本で上映してヒットさせないと、日本でのヒットが基礎としての海外展開だなと、強く思いました。ですので、去年の『君の名は。』や『この世界の片隅に』などのヒットは、日本の映画界にとってすごくいいことだなと思いました。潜在的なお客様というのはまだまだたくさんいるという証明だと思うので、日本の若手監督が頑張ってやっていかないといけないな、と改めて思いました。
Q:小路監督からエドモンド監督へ
小路紘史監督:聞きたいことはたくさんありますね(笑)。少し専門的なことになるんですが、役者の演出がすごく上手いなと思いました。『アケラット ロヒンギャの祈り』は役者の芝居に引き込まれる映画で、どういう風に演出というか、演技指導をしたのかなってことをお聞きしたいですね。
エドモンド・ヨウ監督:私のこの作品は結構アマチュアが多くて、主演女優や男優など2~3人のプロの役者さんはいましたが、それ以外は皆さんアマチュアです。例えば悪役の方もたまたまその場にいたので演じてもらいました。ビックボスという親分役の方は、彼自身が実際ある団体のまとめ役をやっている方なので、ありのままの自分でやって下さいとお願いして、映画に参加していただきました。
当然ながらアマチュアですので演技自体に癖があるわけでもなく、前もってこういう風に演技しようと思っているわけではないので、どちらかというとドキュメンタリーに出演しているような感じといったほうがいいのかもしれません。本当に運が良くて恵まれていたのかなと思います。
Q:小路監督の『ケンとカズ』の主演の2人、カトウシンスケさんと毎熊克哉さんという魅力的な若手の俳優をスクリーンに焼き付ける手腕に感心しました。
小路紘史監督:あの2人は結構複雑な人間でした(笑)。自信もあるんですけど、不安もやはりあって。すごい演技論も自分で持っているけれど、監督の言うことも聞いてくれるというか。
ちゃんと他人の話を聞いてくれる役者って、いるようでなかなかいないと思うので、そこがあのような芝居に出ているんだろうなと思います。
Q:今後について?
小路紘史監督:僕は今2作目を書いています。来年は無理でも、近い目標ではありますが、再来年くらいにまた東京国際映画祭に戻ってくることが出来るように、ちゃんとした作品を作っていこうと思います。
『ケンとカズ』を東京国際映画祭で上映していただいて本当に嬉しく思っています。またこの映画祭に帰ってくることが出来たらなと思っております。
エドモンド・ヨウ監督:私は3本目の作品の前半の撮影が終わったばかりです。
後半部分は日本で撮影したくて、雪を待っているのと、それと資金繰りですね。できれば日本でプロデューサーが見つかればと思っています。願わくは、来年中には完成してぜひまた東京国際映画祭に来ることができればと思っております。小路監督、次回作をとても楽しみにしております。