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2017.11.21 [イベントレポート]
久松猛朗FD、TIFF30回の節目に多彩なプログラムで動員増実現「一歩を踏み出せた」
久松FD
©2017 TIFF
eiga.com


第30回東京国際映画祭の劇場動員数は6万3679人。共催・提携企画も合わせれば20万人以上が詰めかけた。会期中に台風22号が通過するなど天候不順があったことも鑑みれば、劇場動員が昨年比で3000人以上もアップしたことは大きな実績といえる。今年4月にフェスティバル・ディレクター(FD)に就任した久松猛朗氏は、いかにして節目の大会のかじ取りを行ったのか。

「映画を観(み)る喜びの共有」「映画人たちの交流の促進」「映画の未来の開拓」――久松氏は就任に際し、長期的な視野に立ってこの3つをビジョンとして掲げた。その上で、「十分ではないけれど、一歩を踏み出せたかなという手応えのようなものは少し感じています」と自負する。

日本アニメの特集や「日本映画スプラッシュ」など、近年に創設された部門に加え、TOHOシネマズ六本木ヒルズの6スクリーンで別々のテーマのオールナイト上映「ミッドナイト・フィルム・フェス!」、ミュージカル映画の歴史をたどる「トリビュート・トゥ・ミュージカル」、無料上映だが隣接する六本木ヒルズアリーナのビジョンで過去の出品作からセレクトした名作30本の上映「Cinema Arena 30」などを新設。映画を観る喜びの共有のため、上映本数は昨年比25本増の236本となった。

「プログラムの多様性によって満席や売り切れ間近という上映が多く、全体的に埋まっていたようです。TOHOシネマズを見に行っても人の出入りが多くて、にぎわっている映画館という印象を受けました。アリーナでの上映も、寒い中でも皆熱心に見ているんですよ。台風が通過した日曜日は『タイタニック』だったのですが、けっこうな数の人が毛布を借りて一生懸命見ている。映画の力はすごいなとあらためて感じました」

交流の促進に関しては、六本木ヒルズのシネマカフェのパス規制を緩和したのをはじめ、大屋根プラザやアリーナにもミートポイントを設置し、出会いの場を創出。久松氏自身もヨーロッパからのゲスト陣に請われ、カラオケ店に招待したこともあったという。

「パーティは、“こんなにゲストが来ているのは初めてですよ”という声が聞こえるくらい参加率が高かった。ちょっと予算はオーバーしまたけれど、そうやってエンジョイしてくれるのは大事なこと。ヨーロッパのゲストといっても数カ国の人がいるし、東南アジアの人もいた。映画そのものも大事ですが、トータルでの雰囲気で行って楽しかった、また行こうという体験ができることも重要なので、そこもステップアップしている気はします」

一方で、ゲストの華やかさに欠けた面は否めない。特に海外のビッグネームが少なく、オープニング前日に同じ場所でハリソン・フォードが参加して『ブレードランナー2049』のジャパンプレミアが行われたのは皮肉だった。だが、久松氏はあくまで前向きだ。

「大物といわれる人に来てほしいのはやまやまですが、これは配給会社との関係やプロモーションのスケジュールの問題もある。確かに興行であればそういう方の力を借りなければいけない部分もあるけれど、映画祭で見いだした人を世の中に紹介していくのも我々のミッションのひとつだと思っています」

その思いを具現化したのが全出品作を対象に若手俳優を顕彰する「東京ジェムストーン賞」の創設だ。ジェムストーンは原石の意味で、記念すべき第1回は松岡茉優、石橋静河、フランスのアデリーヌ・デルミー、マレーシアのダフネ・ローという4人が受賞。「たまたま女優さんばかりになってしまいましたが、彼女たちが世界で仕事ができる契機になってくれればと思います」と未来の開拓につながることを期待する。さらに、河瀬直美監督や坂本龍一らによる若手映画人に向けたセミナー「TIFFマスタークラス」も開催し、これは来年以降、拡大していく意向だ。

就任が正式に発表された4月から実質約7カ月という短い期間で、さまざまなアイデアを進言し形にしてきた。一応の成果は見せたが、当然、反省点や課題も浮き彫りになっていく。

「限られたバジェットの中で、何かをやりたいとなれば何かを捨てなければならないということは出てくる。それでも、それぞれの部門にお客さんがついているので、できれば維持しつつ足す方向でいきたいと思っています。今回もいろいろなところでコストダウンもやりましたし、無駄や工夫することでセーブできるものを新規企画や強化に向けることは必要になっていくでしょうね」

1年後に向けた、新たな闘いは既に始まっている。
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