東京国際映画祭公式インタビュー 2017年11月2日
ワールド・フォーカス部門『サッドヒルを掘り返せ』
ギレルモ・デ・オリベイラ(監督)
1966年に製作された『続・夕陽のガンマン』はセルジオ・レオーネの代表作として知られている。そのラストシーンで使用されたロケ地、スペイン山間部のサッドヒルに映画で使用した墓地が残っていたことが判明。ファンたちが墓を復元すべく集まるようになった。ニュースを聞いたギレルモ・デ・オリベイラはファンたちを追い、クリント・イーストウッドやエンニオ・モリコーネなどのスタッフ、関係者に取材。ドキュメンタリーに仕上げた。
――この題材を撮ろうと思われた経緯から聞かせてください。
ギレルモ・デ・オリベイラ監督(以下、オリベイラ監督):言うまでもなく私は映画ファンで、趣味でロケ地巡りをして写真を撮ります。その趣味を知っている友達が、『続・夕陽のガンマン』のファンが、墓を掘り返すというプロジェクトを始めたと教えてくれました。映画公開から半世紀も経っているし、プロジェクトも面白い。掘り起こし作業が始まる前にぜひカメラに収めたいと思って、飛んでいったわけです。そうしてこの映画の企画が始まったのですが、実際に掘り起こし作業が、ここまで広がるとは思いませんでした。
――話を聞きつけて、とりあえずカメラを回したわけですね。
オリベイラ監督:『続・夕陽のガンマン』公開50周年記念日に向けて、何か大きなイベントがあるということは聞いていて、それは知ったうえで撮影を進めたのですが、最初は長編を作るつもりはありませんでした。撮影のアプローチとしては、ふたつの柱があったのです。『続・夕陽のガンマン』の裏話を聞くことと、掘り起こしプロジェクトですね。クリント・イーストウッドやエンニオ・モリコーネといった関係者に話を聞きたいと思っていましたが、どのように映像をまとめるかまでは考えていませんでした。
――結果として作品になったわけですね。『続・夕陽のガンマン』の関係者たちに、よくお話が聞けましたね。
オリベイラ監督:誠実さと熱心さでインタビュー依頼をすることが功を奏しました。クリント・イーストウッドに関しては、9か月ほどかかりました。サッドヒルの墓を掘り起こすことをイーストウッド本人が知って、「それならインタビューに応じましょう」となりました。
次回作は長編のフィクションを撮りたいと思っています
――イベントに参加した人たちは、イーストウッドの映像という素敵なプレゼントを監督からもらったことになるのですね。
オリベイラ監督:ギフトのつもりで映像を撮ったわけではありませんが、結果的にはプレゼントになったと言えますね。イベントの最後にイーストウッドのインタビュー映像を提供したのですが、観客の反応を見たら、私の方が感動しました。情熱をもって、粘り強くプロジェクトに取り組んだ彼らの努力は、計り知れません。彼らが涙を流して喜んでくれたことに感動したのです。
――最初は長編になるかどうかも分からない状態で、どのように予算を捻出したのですか。
オリベイラ監督:そもそも、そんなに予算がかかっていません。撮影は私とカメラマンぐらい、最少人数ですから。空撮も、所有しているドローンを使っています。もともと広告畑で仕事をしているので、カメラも持っていました。サンフランシスコやローマに飛んでインタビューをしましたが、製作費は微々たるものでした。ただ編集時点で、スチール写真、映画のクリップ、エンニオ・モリコーネの音楽の使用に莫大な金額がかかったので、その分はクラウドファンディングで賄うことにしました。
――それでは週末に撮影をして、平日は広告の仕事をしていたのですね。
オリベイラ監督:もともとは、YouTubeに載せる程度のことしか考えていませんでした。最初は短いクリップ用の撮影手法をとっていましたが、本格的な作品になるかもしれないと思うようになってから、撮影手法も変えました。カメラをじっくり据えて話もじっくり聞くようになったのです。
――この作品を完成されたことで、長編監督デビューをしたわけですが、次の企画はあるのですか。
オリベイラ監督:今まではフィクションで短編しか撮ったことがなかったのに、ドキュメンタリー作家になってしまいましたが、長編を撮った以上は、次はフィクションの長編を撮りたいと思っています。
――監督自身も『続・夕陽のガンマン』の大ファンなのですね。
オリベイラ監督:レオーネ作品では『ウエスタン』が一番好きなのですけどね。今回の来日で嬉しかったのは、新宿のパークハイアット東京の最上階のバーに行って、『ロスト・イン・トランスレーション』の再現ができたことです。ビル・マーレイの気分を味わいました。
(取材/構成 稲田隆紀 日本映画ペンクラブ)