10/29(日)、コンペティション『泉の少女ナーメ』の上映後、ザザ・ハルヴァシ監督、女優のマリスカ・ディアサミゼさん、スルハン・トゥルマニゼ プロデューサーをお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
ザザ・ハルヴァシ監督:皆さま、今日は私の映画をご覧になっていただき、どうもありがとうございました。私の映画は、楽しめる映画の類ではないのですが、最後まで我慢していただいて、感謝申し上げます。私がやろうとしたのは、ストーリーを沈黙の中で、静けさの中でお伝えしたかったということです。私が一番強調したかったのは、映画の中の細かいニュアンス、繊細なディテールなのですが、それは音楽を鳴らしながら、大きな声を出しながら伝えることではないので、こういう沈黙の中で集中できる場が必要だったのです。
もう一つ言いたいことが…。これだけ集中して聞いてくださるオーディエンスはめったにいないので、このチャンスを使わせていただき、説明したいと思います。今の賑やかな、うるさい時代の中で、私は聖書に向かうことが好きです。そしてこの映画の中でも聖書からのセリフを使わさせていただきました。聖書といっても、シンプルな聖書の哲学を伝えたかったのです。
マリスカ・ディアサミゼさん:私はザザさんのような詩人的な精神を持っている人間ではないのですが…。簡潔に言わせていただきます。この映画が東京の映画祭に参加することになり、とても光栄に思っております。なぜなら、これで私の子供の頃からの夢が叶うことになったからです。日本の皆様、ジョージアの小さな、家族といってもいいほどの者たちを心厚く迎えていただき、本当に感謝申し上げます。(日本語で)ドウモアリガトウ。
Q:映画の発想について?
ザザ・ハルヴァシ監督:我が国は黒海に面しております。黒海沿いに住んでいる人たちの間に、こういう神話が存在します。大昔、水で人々の心や傷を癒していた少女がいたのですが、彼女は普通の生活に戻りたいと願っていました。普通の人間になりたかったのです。普通の生活を目指していたからこそ、彼女は自発的に自分の持つ力を拒否するのです。彼女は、彼女自身の力の源になっていた魚を開放しました。魚は自然に帰り、彼女は人間として自然の状態に戻ったという神話が伝わっております。ですから、私たちは神話をモチーフにして映画を製作しましたが、それ以外の話は我々の考えたフィクションに過ぎません。
Q:印象的な建物のシーン、これは意識的に全体が映るように撮ったのでしょうか?
ザザ・ハルヴァシ監督:この映画の映像美というと、少し自慢のように聞こえるかもしれませんが、全てを意識して伝えようとしました。この映画では、導入とそれに続くストーリーの展開という流れがありますが、実は建築の中でもそういう流れを伝えたかったのです。
Q:母親の不在が登場人物に与えた影響、異なる宗教について、また、ロケーション場所を教えていただけますでしょうか?
ザザ・ハルヴァシ監督:私はスクリプトより映像で意味を伝える方が好きです。なぜかというと、映画というのは私にとって映像の芸術であり、言葉の芸術ではないと思っているからです。今回は、映像で伝えるのが少し難しかったのでスクリプトで伝えることにしました。それは、あるシーンで、母親が亡くなってから、ナーメが後を継ぐことになったと言うセリフがありますが、それがすべてを明らかにしているのではないでしょうか。ロケ地は、南ジョージアのアジャラという地方で、ジョージアの中ではその地方だけ、イスラム教とキリスト教が共存するところです。ひとつの家族の中でも、イスラム教徒とキリスト教徒がいるというのは、非常に稀な例ではないかと思いますが、この作品の中でも、イスラム教徒、キリスト教徒、そして無宗教の兄弟が揃って母国ジョージアに乾杯するというシーンがあり、宗教が異なっていても、みんながこの国の者たちだということを伝えたかったのです。
Q:マリスカさん、ナーメを演じるための役づくりはされましたか?
マリスカ・ディアサミゼさん:最初に俳優がスクリプトを読むときには、なるべく自分が演じなければいけない人のことを理解しようとしています。つまり、その人が行動する裏にどういうモチーフがあるかということを理解しようとします。理解をした後には、個人的な理解が生まれますが、もしかしたら、監督が考えていることとは全く違う理解になっているかもしれません。ですから、そのあとは、自分のキャラクターはどういうふうに感情を伝えなければならないのかを監督と相談します。すべてのシーンを撮る前に必ずそうした相談をした上で、演じることにしました。
Q:自然の風景の画作りで苦労されたエピソードがありましたら教えてください。
ザザ・ハルヴァシ監督:映画を撮影した場所は、霞の多い場所です。しかし、私たちが撮影を始めると、霞が消えてしまうのです。実は、首都から専門家を連れてきて、人工的に霞を作ることになったのですが、それがとても嫌で、人工的な印象を与えるのではないかと苦労しました。そして、おっしゃる通り、自然の美しさをそのまま伝えようとしたところが一番苦労したところです。ただ、最後のシーンの霞は、人工的な霞ではなく自然に現れた霞でした。非常に美しく撮れたのではないかと思います。「現実が詩を作った」と言ってもいいのではないかと思います。
マリスカ・ディアサミゼさん:天気では苦労しました。少し寒かったので。でも、その自然を見て、それを体感し、自分の肌で感じると、自然の中で生きるナーメを演じることが逆に簡単になりました。
ザザ・ハルヴァシ監督:この映画の製作に大きく貢献してくださったのは、ジョージアの友人であるリトアニアです。特にリトアニアの映画センターに感謝しています。というのも、リトアニアからの支援がなければこの映画を製作することができなかったと思います。
スルハン・トゥルマニゼさん:まず、プロデューサーとしての仕事は、実は簡単なものでした。主な目的・課題は、プロセスを邪魔しないということでした。そして、リトアニアからとても素晴らしいパートナーが映画製作に参加してくれたことは、とてもラッキーでした。彼らの支援がなければ、おそらくこの映画は完成しなかったのではないかと思います。そして、特にセールスマネージャーの方に感謝したいと思います。彼女の尽力がなければ、この映画が東京に来ることはなかったでしょう。