10/29(日)、ユース TIFFチルドレン『映画万歳!』の上映後、パウロ・パストレロ監督をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細
パウロ・パストレロ監督:こんにちは、私はブラジル人ですが、英語よりもフランス語のほうが話せるのでフランス語であいさつさせていただきます。今日は来てくださり、ありがとうございます。この映画は私がとても好きな映画で、映画の中にいくつものいろいろな要素が組みこまれています。観るたびに、新しい発見がありますので、何回も観直すのが好きです。そして、子供たちの反応、また一般の方の反応を聞くのが楽しみです。
Q:製作のいきさつを教えていただけますか?
パウロ・パストレロ監督:パリで映画の勉強をして、修士をとりまして、そのあとブラジルに戻りました。その時に学校で、仕事をしないかということで呼ばれたのです。今回の「映画、100年の若さ」というこのプロジェクト自体はもともとフランスのシネマテイクの教育プログラムとして始まったものです。ちょうど映画発祥から100年を記念をする1995年に始まったのですが、まずはフランス国内で子供たちが映画を作りました。それからだんだん国際的に広がっていって、スペインやポルトガル、今回の日本、そして、ブラジルも参加しました。
矢田部PD:日本がこのカリキュラムに参加することが今年(2017年)、決まりました。
パウロ・パストレロ監督:日本に関しましては、ちょうどこの「映画、100年の若さ」というプログラムはヨーロッパをベースとしているので、9月から6月までの欧米の新学期に合わせて今年なのか、それとも日本の新学期に合わせて来年の4月からなのかという話がありました。
Q:映画に出てくる学校について
パウロ・パストレロ監督:映画に出てくる学校は、ベースとなる教育を非常に大切にしていて、ベースの授業に映画を取り入れています。年に三回は映画館に小学生を連れて、あるいは中学生を連れて観に行きますし、帰ってきてから学校で映画についていろんな子供たちが分析するというのを3歳のときから15歳くらいまでやっています。そんな中フランスでこの「映画、100年の若さ」という映画プログラムがあるということで、そちらに参加させていただくということになりまして、責任者の方ともいろいろな議論をして、2011年に参加することになりました。そうすると、フランス語が話せるブラジル人の監督が必要だということで、私はちょうどパリから帰ってきたところでしたので、このプログラムに入ったわけです。
2015年にこのプログラムが作られて20年になるということで何か記念の授業をしようということで、ナタリーが参加者に何か記念の出来事はないか、という話をしたときに、私はもともとドキュメンタリーの映画監督なので、1年間のこのプログラムに実際に参加して、映画を作る子供たちのプロセスをドキュメンタリーにしてもらえないかという依頼を受けました。彼らにもどういう風に実際にこのプログラムが年間を通して実施されているのかという記録がなかったので、1年間を記録したドキュメンタリー作品を作ったわけです。
Q:この子供たちの作品というのをインターネット上か何かで観ることは出来るのでしょうか?
パウロ・パストレロ監督:はい、「映画、100年の若さ」というプログラムのブログ(*)があります。参加者の状況やどのように子供たちがワークショップで働いたか、完成した作品の最終的な掲載をしていて、実験的なフィルムとして公開しています。20周年に関しましては、20周年特別インターネットサイトが出来ています。今回私たちはインターバルというテーマでやっているのですけども、おそらく私たちの作品はまだアップされていないです。この子供たちの作ったドキュメンタリーは確かに全容がいっぺんに見られなくて残念なのですけど、今回のドキュメンタリーは作るのが非常に難しかったです。というのも子供たちが映画作りというものをまず理解して、インターバルというこのテーマ自体をよく理解して、自分のものにして、それをもとに映画を作るという作業だったので簡単には出来ませんでした。このドキュメンタリーの中で子供たちが作っている画面は全部取り上げています。少し切れ切れになっているのですけど、一応映画の順番に作って、最終的にそれをつなげれば、子供の映画になるという感じなのです。そんな撮り方で、時系列でドキュメンタリーも作られています。
Q:参加した子供たちの進路について、実際に映画業界に入った参加者はいらっしゃいますか?
パウロ・パストレロ監督:はい、映画界に入った子供たちはいます。幸か不幸かはわかりませんけど(笑)。このプログラムの趣旨は映画教育を子供に施すとか、監督を育てるとかいうことではなくて、映画を芸術として体験する、芸術としての映画との出会いを基本としています。ブラジルの教育カリキュラムの中には、ベースの教育もありますが、ビジュアルといった場合にその中に描かれているものは何なのか、メッセージは何なのか、いかにそのリテラシーを高めるか、そういう方向の映画教育が多いのですね。映画を一つの芸術としてとらえて、その歴史を自分たちで引き継ぐだとか、そういう歴史的遺産としての映画という考え方があまりないので、それを補完するために組まれたプログラムなのです。もし子供たちが学校で芸術として、美術として映画を学ばなければ、芸術としての映画の将来はないという意見が、まさにそれなのです。映画館に行ってみても、なかなかその作品を芸術・美術として、それを美しいと見ることが少なくなっていて、そこに導くためにこのプログラムはあるのです。子供たちに聞くと、映画界は嫌だ、僕は弁護士になる(笑)、等いろいろ意見はあったのですが、一方で大学に入学して、映画撮影監督になるという子もいて、それもいいんじゃないかと思っています。
Q:撮影に際して子供たちがカメラを意識したり、普段とは違う様子になったり、苦労はなかったでしょうか?
パウロ・パストレロ監督:ドキュメンタリーにおけるカメラの存在を目に見えないようにするのか、カメラの存在を意識して、ドキュメンタリーを撮れるのかというのは永遠の課題なんですけど、フランス流のシネマ・ヴェリテのようにカメラはそこにあるのだからしょうがない、そして気にならないのは嘘であると、隠すというよりも、カメラの存在を認識したうえでドキュメンタリーを撮るという考え方もあります。今回の場合私もどうなるのかわからなかったのですけども、実際にはとても小さなチームで子供たちを撮ったんですね。(大人は)音声技術者とカメラと私がいたくらいで、そういった意味では溶け込んでいて、かつ子供たちが何を撮ろうかというものを議論しているところに参加して、助けてあげると、彼らには意識されることなくシチュエーションに馴染むことが出来ました。最初は私も心配していたのですけど、いざ始めるとカメラの存在は忘れていました。
Q:パストレロ監督自身が子供たちから学んだことはありますか?
パウロ・パストレロ監督:このプログラムについては7年間毎年やっていて、そのたびにテーマや取り上げる問題は違っているのですけども、一緒に多くのことを学んで、そして子供たちにも伝えることができて、私にとってもここは映画を学ぶ場であると思います。私自身が非常に多くのことを学びました。子供たちは創造性豊かでクリエイティブなんです。アイデアが出てきて、いろいろな可能性をどんどん出していくので、その中からどれを取り上げて、伸ばしていくのかの議論を私がやったわけですけど、アイデアが溢れるという状態でした。現実の子供たちが成長していく姿も見ることができました。女の子にキスをするかしないかの議論が出たり(笑)、現実に即した映画作りであったわけです。この映画を見て私のクラスに対する見方も変わりました。子供たちも映画作りの影響を受けていますので、だからこそこれを学校のカリキュラムとして取り入れるべきだと思います。やはりこの芸術作品を作るということと、みんなでまとまって集団のプロセスをすることによって、何かを作りあげるということがとても子供の成長に役立つと感じました。