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記念すべき30回目の東京国際映画祭は、トルコの巨匠セミフ・カプランオール監督の近未来SF『グレイン』が最高賞の東京グランプリに輝き、閉幕を迎えた。コンペティション部門の審査委員長を務めた米俳優で映画監督のトミー・リー・ジョーンズが10日間を振り返った。
東京グランプリ受賞作『グレイン』は、近未来を舞台に、移民の侵入を防ぐ磁気壁に囲まれた都市に住む種子遺伝学者が、人類の危機を救うため、遺伝子改良に関する重要な論文を執筆中に姿を消した同僚研究者を探す旅をモノクロで描いた。ジョーンズは本作について「てのひらに置かれた穀物(グレイン)以上に人間味のあるものはないのではないだろうか」と評し、「古代の神話的な物語が現代に非常に密接な形で表現できている部分が魅力的だった」と感想を述べた。
コンペティション部門15作品の中でもっとも大きなテーマ性をもった作品と言えるが、「テーマの大小は検討しなかった。映画のテーマという尺度を図る定規はない」と断言。開幕時の審査員会見で表明した「政治的意図はない。人間の知的、感情的な人生の送り方など、そういったことに共通する“人間味の要素”を見ていく」との審査の方向性を貫いたと言える。
オスカー俳優のジョーンズの目にも、最優秀男優賞を受賞した中国のスター俳優ドアン・イーホン(『迫り来る嵐』)、最優秀女優賞に輝いた新星アデリーヌ・デルミー(『マリリンヌ』)は「とてもいい役者」と映った。「役者は物語の序盤、中盤、終盤としっかり物語を抱えて伝えていかなければならない。どの時点でも、登場人物が物語のなかに存在していること、キャラクターに課せられた役割を果たしていること、役者が登場人物を演じることで物語を運んでいることが大切だ」と評価のポイントを語る。
審査は「各作品の上映後、10~15分ほど時間を設け意見交換」を行い、日を重ねるにつれ作品ごとの比較も行ったという。「作品によって、とても気にいった人もいれば、好きになれなかった人も出てくる。そこで感想を話し合うことで、いろいろな思いをめぐらせ、新しい考えが出てきたりする」と、話し合いの過程で意見を集約したようだ。受賞作以外の評価については、「ある人がほかの人よりも推していた作品があったのは事実だが、話し合いの詳細を公表するのは差し控えておく」と言うにとどめた。
本年のコンペティション部門には、88の国と地域から1538作品が応募され、日本映画『勝手にふるえてろ』『最低。』の2作を含む全15作品が選出。ジョーンズは「それぞれが異なり、共通する概念などはなかった」と、部門全体としての傾向や一貫性を否定。「どの映画にもかならず欠点はある。完璧な人間がいないように、完璧な映画もない」と持論を展開した。
30回という節目を迎えた東京国際映画祭を「多様性という価値をもった立派な映画祭」と評するとともに、今後の成功と発展を祈念。しかし、他の映画祭にも共通する唯一の難点として、デジタル高画質/ブルーレイでの上映方式を挙げた。「監督の意図が忠実に表現できているのか、とくに色味や光の有無の部分で疑問に感じる。運営側はその点を考慮してほしい」と映画監督ならではの視点で指摘。「決して辛辣な批判ではない。ただ、フィルムメーカーが生み出そうとしている映画と、上映技師が壁に映し出そうとする映画の間には差異がありうるので、すべての映画祭でこの違いに敏感になってほしい」と提言した。なお、世界で唯一満足したのはカンヌ国際映画祭だそうだ。
マレーシア映画『アケラット-ロヒンギャの祈り』に最優秀監督賞(エドモンド・ヨウ監督)、中国映画『迫り来る嵐』に最優秀男優賞(ドアン・イーホン)と最優秀芸術貢献賞(ドン・ユエ監督)を授与する結果となり、「アジアのパワーを感じたか?」という問いに、「特には。私にとって日本は外国ではないからね」と、親日ひいてはアジアへの親近感をアピールしたジョーンズ。次回は監督作を引っさげて東京国際映画祭へとの声に「イエス」と力強く答えた。