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第30回東京国際映画祭で、コンペティション部門の審査員を務めた俳優の永瀬正敏。“日本代表”として大役を務め上げた安どとともに、「より映画が好きになりましたね」と初の経験が大きな成果をもたらしたことを明かした。
ふだんは審査される立場なだけに、就任要請には戸惑いしゅん巡した。だが、「1度は映画を裏側から見ることを体に入れた方がいい年齢になったのかな」と考え始め、加えて30回の節目というタイミング、第1回のグランプリに当たるヤングシネマ・コンペティションの大賞が恩師である相米慎二監督の『台風クラブ』だったという縁もあって決意した。
もちろん、短期間に15本の映画をひとつの目的意識を持って見るのは初めて。「作り手の気持ちは痛いほど分かる。(コンペに)ノミネートされただけでも素晴らしいことなので、同業者というのは忘れて1映画ファンとして楽しむ、どれだけ心を動かされたかで見るようにしました」という。
「初日から事の重大さをひしひしと思い知らされました」と苦笑いで振り返るが、審査委員長の米俳優トミー・リー・ジョーンズの提案が大きな助けとなった。それは、1作品見るごとに開催されたミーティング。「すごくいいアイデアでした。皆が真剣に1本1本を見て議論する。それはすごかった。けっこう長引いて、スケジュールが押したこともありましたけれど。トミーさんの音頭取りがお上手だったからだと思います。僕らの審査委員長は素晴らしかった」
結果、東京グランプリの『グレイン』をはじめとする審査は、すべての賞がほぼ全員一致で決まったという。「すごいバトルが展開されて明け方まで続くのかなと覚悟していったら、皆心に抱いていたものは似ていたんです。同じ空間でバラバラに座って見ていたのに、皆一緒なんだなあと思いました。撮影賞や美術賞などもっと賞があれば、全作品にいきわたったかもしれない。そのくらい良かったです」と充実感をにじませた。
クロージングセレモニーでジョーンズは、「審査員の皆さんと友情が築けた」と語った。永瀬もさまざまな思いを胸にステージに立ち、「毎日一緒にいましたから。本当にきずなができて、これで皆さんとしばらく会えないんだなあと思うとちょっと寂しかったですね。それと受賞された方のお顔を見ているとうれしかったし、さらに責任感も芽生えましたね」と振り返る。
さらに、「僕以外は皆、監督経験のある方なので、全員に使っていただけるような役者になりたいですね」とジョーク交じりに意欲。そして、あらためて去来したのは、映画は観客のものだという思いだ。
「コンペではない作品でも、劇場がいっぱいになっているのはやっぱりうれしかった。トミーさんも仰っていましたけれど、見ていただく方の時間を無駄にすることがないように一生懸命やらなきゃという感じですね。その結果がノミネートであって賞であるので、そこをおろそかにしていると絶対にいけないですから。もうちょっと早く気づけよって話ですけれど、呼んでいただけたのは本当にありがたいことだと実感しました」
永瀬は祭の余韻に浸ることなく、間もなく河瀬直美監督と3作連続のタッグでジュリエット・ビノシュと共演の『Vision』の撮影に臨む。審査員の体験は大きな糧となるはずで、今後がますます楽しみになってきた。