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2017.11.05 [インタビュー]
審査員特別賞に輝いた『ナポリ、輝きの陰で』製作陣が構築したリアリティにあふれた映像世界
ナポリ、輝きの陰で
©2017 TIFF
 
eiga.com

東京国際映画祭公式インタビュー 2017年10月27日
コンペティション部門『ナポリ、輝きの陰で
シルヴィア・ルーツィ(監督/プロデューサー/脚本/編集)、ルカ・ベッリーノ(監督/プロデューサー/脚本/編集)、シャロン・カロッチャ(女優)、ロザリオ・カロッチャ(俳優/脚本)

ドキュメンタリーとフィクションの要素が混ざり合い、戸惑う感覚を狙ってつくりました

ナポリ郊外で露天商を営むロザリオは、娘シャロンの歌の才能を生かし貧乏な暮らしから抜け出ようとする。だが、ポップスターにするために厳しい訓練を強いる父に、娘は次第に反抗していく。実際の露天商であるロザリオと娘の日々を、フィクションとして描きだす。初の劇映画となるドキュメンタリー出身のシルヴィア・ルーツィとルカ・ベッリーは、演じるロザリオ・カロッチャを脚本に参画させ、リアリティに溢れた映像世界を構築した。

――まず、この作品が生まれる経緯をお聞かせください。

シルビア・ルーツィ監督(以下ルーツィ監督):まず普遍的な父と娘の物語をつくろうと考えました。娘はまだ若くて反抗期で家族がバラバラになる展開です。登場人物に寄ってアップの画面を多用し、どこが舞台であるかは分からないように撮るつもりでした。
ナポリ、輝きの陰で

――カロッチャさん親子を起用した理由は何でしたか。

ルカ・ベッリーノ監督(以下、ベッリーノ監督):最初にシルビアが話したようなラフなスクリプトがあり、イメージに合う親子を探しました。考えていたキャラクターに近かったのがシャロンとロザリオでした。シャロン、ロザリオと一緒に脚本づくりを行い、実生活の部分に私たちの考えたストーリーを盛り込んで脚本に仕上げました。撮影も同様に、リアリズムを追求しつつ、フィクションの構図の中で描こうとしました。フィクションのなかでリアルな現実を見せることによって、強いインパクトを生み出そうと考えたのです。
ナポリ、輝きの陰で

――最近はドキュメンタリーとフィクションの境界が失われつつありますね。

ベッリーノ監督:ドキュメンタリーの要素とフィクションの要素が混ざり合い、現実なのかフィクションなのかわからない、そういう戸惑う感覚を覚える世界を狙いました。

――ふたりは自分たちの現実を演じるわけで、躊躇することはありませんでしたか。

ロザリオ・カロッチャ:演技経験もなかったので非常に苦労しました。おもちゃを売っていることと、シャロンが店の前で歌を歌っていることだけが現実で、それ以外は全部フィクションです。監督は私の演技が気に入らなかったようです。撮り直そうと私の方から申し出ることもありました。映画では怖い父ですが、現実には優しくて、お互いに愛し合っています。
ナポリ、輝きの陰で

才能があっても社会で開花できない人物像を描きたかった

――シャロンさんはもともと歌手志望ということでしたが、今も変わっていませんか?

シャロン・カロッチャ:4歳の時から歌い続けています。最初は屋台の前で歌っていましたが、最近はアーティスティックな仕事をしています。この映画を通じて演技の仕事も覚え、歌に加えて自分の情熱を傾ける対象になりました。
ナポリ、輝きの陰で

――ルーツィ、ベッリーノの両監督にとって、初めての劇映画と伺いましたが、どうやって仕事を分担しているのですか。

ルーツィ監督:まず脚本を執筆することから始まるのですが、互いに書いたものをつき合わせるやり方を採用しています。私のほうがペシミスト(悲観的)で、彼はオプティミスト(楽観的)ですね。私は自分が書くものが気に入らないし、彼は自分の書くものが気に入って満足してしまうところがあります。

――撮影の時はどう分けているのですか。

ルーツィ監督:カメラに関してはルカに任せます。ルカの方が明らかに技術的にも優れていますし、完璧に信頼できます。私はサウンドの方を受け持っています。照明を含め完璧なストーリーボードを作って、撮影に臨みます。2、3回綿密なリハーサルを行ないます。もめごとはその段階で解決させているので、撮影はスムーズに進みます。この映画は最初の劇映画ですが、モニターを使わないで撮りました。クローズアップも多く、ピント合わせが難しいのですが、チェックをする必要は全くありませんでした。
ナポリ、輝きの陰で

ベッリーノ監督:フォーカスを意図的に外したところはあります。ドキュメンタリータッチで自然な流れで撮っているように見えますが、全部、最初からキチンと計算しています。

――監督はこの作品で描かれている世界の側に立ち、共感をもって描かれたのですね。

ベッリーノ監督:シルビアはジャーナリスト出身、私は映画の世界で仕事をしてきました。この映画は、才能をもっていても花を開かせることができない、社会に参加することのできない人物像を描きたかったわけです。格差社会の被害者ですね。そうした人々に今後も目を向けていきたいと思います。

(取材/構成 稲田隆紀 日本映画ペンクラブ)
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