第30回東京国際映画祭が11月3日、閉幕を迎え、各賞受賞者がEXシアター六本木で会見を行った。東京グランプリに輝いた『グレイン』のセミフ・カプランオール監督は、柔らかな笑みを浮かべて登壇。報道陣から万雷の拍手で迎えられると、ゆっくりと頭を下げて謝意を示していた。
同作は、カプランオール監督が7年ぶりにメガホンをとり、ダークなディストピアを美しいモノクロ映像で描いたSFドラマ。「結果はどうなるかわからなかった。賞はもらうものではなく、与えられるもの。私の映画はきっと理解してもらえるという希望を抱いていました」と振り返ったカプランオール監督は、トルコの映画製作の実情に関する質問の際、作品を支えてくれた人々に対して感謝の言葉を紡いだ。「前作『蜂蜜』が40カ国で配給が決まったことで、本作の製作へとつながりました。そして文化観光省、トルコ国営放送(TRT)などのサポートに加え、ドイツ、フランス、スウェーデン、カタールの合同制作という形で撮影が可能になった企画です」と思いの丈を述べていた。
観客賞と東京ジェムストーン賞の2冠を達成した「勝手にふるえてろ」の大九明子監督は、コンペ部門にノミネートされただけで満足だったようだが「(観客賞は)ちょっとだけとれるかなと思っていました。受賞できるとしたら観客賞かなと(笑)」とニッコリ。12月23日の全国公開を控え「どんな方に作品を見てほしい」と問われると、ともに会見に臨んでいた「ペット安楽死請負人」(最優秀脚本賞 Presented by WOWOW)のプロデューサーのヤニ・ポソ氏の発言を引用して「ある主義主張を持った“面倒くさい女の子”たちに見ていただきたいですね。『これ、私じゃん』と感じてほしい。でも、実は鑑賞してくれた男性の方から『俺もこういう部分ある』という感想があったんです。だから“面倒くさい人たち”に見てほしいですね」と答えていた。
日本映画スプラッシュ部門作品賞は、戸田ひかる監督がメガホンをとった日英合作ドキュメンタリー映画「Of Love & Law」。戸田監督は「(同部門では)唯一のドキュメンタリー。東京国際映画祭というフィクション作品が多い場所で受賞できたことが嬉しいです」と胸中を吐露し、急きょ出演者たちから届いたお祝いメッセージを壇上で読み上げていた。一方「まるでドキュメンタリーに見える」という評が集まった日本とミャンマーの共同制作映画「僕の帰る場所」は、アジアの未来部門の作品賞&国際交流基金アジアセンター特別賞のダブル受賞という快挙。メガホンをとった藤元明緒監督は「ドキュメンタリーのようなタッチにするつもりはなかったんです。キャストの方々は『何かを演じよう』という意識で出演していたわけではありません。元々同じ思いを共有してくれた彼らが、ありのままの姿を見せてくれた。僕らは、物語の中で生きている姿を撮ろうという思いでした」と振り返っていた。
会見には、イタリア映画「ナポリ、輝きの陰で」(審査員特別賞)のシルビア・ルーツィ監督とルカ・ベッリーノ監督、マレーシア映画「アケラット ロヒンギャの祈り」(最優秀監督賞&東京ジェムストーン賞)のエドモンド・ヨウ監督、中国映画「迫り来る嵐」(最優秀芸術貢献賞&最優秀男優賞)のドン・ユエ監督とドアン・イーホンも出席した。