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2017.11.04 [インタビュー]
アルノー・デプレシャン、キャリア集大成の新作『イスマエルの亡霊たち』で「最後の恋を描こうと思った」
『イスマエルの亡霊たち』  
eiga.com

  『そして僕は恋をする』などで知られるフランスの名匠アルノー・デプレシャンの新作『イスマエルの亡霊たち』が第30回東京国際映画祭で上映された。死んだと思われていた前妻が期せずして戻り、現在の恋人と奇妙な三角関係に陥った映画監督イスマエルと、イスマエルが監督するスパイ映画が組み合わさり、現実と創造の世界が入り混じる愛の映画だ。第70回カンヌ国際映画祭では114分の短縮バージョンが上映されたが、東京国際映画祭では134分の「ディレクターズカット版」での上映となった。短縮版は「三角関係をめぐるロマンス」、そしてディレクターズカット版を「世界としての映画」と語るデプレシャン監督に話を聞いた。

――これまでのフィルモグラフィの集大成のような作品ですね。

「脚本を書いていて気が付いたのですが、今までの映画に入っていた様々なテーマをすべて集めた集大成になっていることは確かです。普通は、前の作品とは違ったものを作ろうとします。私の場合『あの頃、エッフェル塔の下で』では初恋を描き、初めてスクリーンに現れる若者を撮影しました。ですから、今回の映画では初恋ではなくて、最後の恋を描こうと思ったのです。登場人物たちは、そろそろ老いが迫ってくる、これが最後の恋かもしれない年齢。そして、今回は初めて世界的に活躍するスターたちを起用しました」

――マリオン・コティヤールは、「そして僕は恋をする」でスクリーンデビューし、その後久々の出演になります。

「とても面白いことです。彼女の役は過去からよみがえってくる役ですから。再会した彼女は『そして僕は恋をする』の時と、同じ女優、女性ではありませんでした。『そして僕は恋をする』が彼女のスクリーン初出演作だったのは、私にとってとても名誉なことです。その後私は彼女が『エディット・ピアフ 愛の讃歌』に出演したのを見て、驚きました。彼女は新たな自分を作り出すことができるのです。それは芸術的な美徳だと思います。別の自分を再発明できる女優はマリオン・コティヤールだけではないでしょうか。フランスのスターで、彼女だけが神話を作ることができる。そして、その神話に疲れてしまうと、自ら壊して、また別の神話を作ります。例えば『インセプション』に出た後、ダルデンヌ兄弟の作品に出たりと。このように自分の作品を新たに作り出せることが素晴らしいと思います。そして今回のカルロッタの役がぴったりだったのです」

――シャルロット・ゲンズブール、ルイ・ガレルの起用について。

「『なまいきシャルロット』以来20年間彼女を追いかけていますし、彼女も私を追いかけていました。だから、ようやく一緒に仕事をする機会が訪れたのです。私は『アンチクリスト』を見て、彼女に対する敬愛の念に打ちのめされ、すぐにメールを送ったのです。そうすると、『私たちはお互い出会えないままでいる。いつか御一緒しましょう』と返事が来たので、君にぴったりの役があるとすぐに返信したのです。それがシルビアでした。シルビアは砂の中の燠火(おきび)のような存在。人生の流れがあり、そこに入っていくというよりは、横から見ている人です。そして、弟のせいで既婚者とばかり関係を持ったり。人生の中のアクターと言うよりむしろ、スペクテーターだったのです。しかし、いつか自分の火を燃え上がらせるために砂を取る、そういう情熱を彼女は持っています。その隠れた情熱こそが彼女の力なのです」

「ルイ・ガレルは、フィリップ・ガレルら、家族ぐるみで互いによく知っている存在でした。今回彼が演じたイヴァンは、聖人なのかスパイなのか、二つの顔を持つのか、ただ馬鹿でナイーブなのかわからないのです。ルイはちょうどミシェル・アザナビシウスがジャン=リュック・ゴダールを題材にした『Le Redoutable』を撮っており、頭を剃り上げていたので、普段とは別の様相をしていました。その奇妙な顔を観客に提供したいと思ったのです。よく知っているルイ・ガレルとは違う顔をしている存在です」

――亡霊と言うモチーフ、メタフィクション的な構成、そして映画監督を描いた理由を教えてください。

「監督を描ける年齢になったので、初めてやってみようと思ったのです。いつか映画監督に関する作品を作らなければと思っていました。映画監督を描いた、偉大で、私にとって重要な作品アラン・レネの『プロビデンス』があります。この作品の主人公は作家ですが、フィクションを作り出すことで、自分自身の実人生を修復しようと試みます。『イスマエルの亡霊たち』は、このレネの忘れられた傑作にオマージュを捧げた作品でもあります。もちろん、映画監督についての作品といえば、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』、ウッディ・アレンの『スターダスト・メモリー』もあります。イスマエルで好きなところは、フランス語で自己紹介するとき、自分自身を映画監督だとは言わず、自分はフィルムメイカーである、映画を作る人であると言うのです。イスマエルは映画に情熱を持ちながらも、謙虚さがある。そこに感動させられるのです」

――「そして僕は恋をする」から、マチュー・アマルリックとともに年齢を重ねてきています。作品の円熟と共に今作にはある種の軽さ、自由さ、若々しさを感じました。

「歳をとるにつれて仕事のスピードが早くなり、軽く仕事ができるようになると思います。マチューとの関係においては、歳を重ねることは違った様相を帯びています。私の側の緊張する気持ちがますます強くなります。それは恋愛と同じです。恋に落ちて最初の1週間は、パートナーに対して自分をすごい人間だと見せることはとても簡単です。ところが、10年一緒にいると深い感銘を相手に与えることは難しくなってきます。したがって、マチューとの関係も同様で、彼が撮影現場に来るたびに、新しいアイデアを見つけて、彼を楽しませたい、すごいと思わせることが出来るだろうかと、とてもあがってしまいます。けれど、成熟するに従って、物語を早く書くことができますし、若いときには入れられなかったジョークも入れられるようになりました」

――では、技能も思考も成熟した現在が映画監督として一番よい時期だと考えますか。

「いいえ、自分はまだ映画監督とは思えず、映画学校の学生のような気分でいます。あと2本か3本撮ったら、自分が映画監督だと思えるかもしれない。いつもそんな気分なのです」
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