第30回東京国際映画祭の特別招待作品、ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』が11月2日上映された。上映前には、デル・トロ監督から「“愛と映画”を深く愛する人のために作った」と作品を紹介するビデオメッセージが流された。
第74回ベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞に輝いた本作は、デル・トロ監督が製作・脚本も手掛けたファンタジーロマンス。1962年、米ソ冷戦時代のアメリカを舞台に、政府の極秘研究所に清掃員として働く、孤独な女性イライザが同僚と一緒に極秘の実験を目撃。イライザが、神のように崇められていたという“彼”の魅惑的な姿に心を奪われ恋に落ちる姿を描く。
映画評論家の立田敦子氏とフィガロジャポン副編集長の森田聖美氏によるトークイベントが行われた。ベネチア映画祭に参加した立田氏は、「コンペに入ったことから『パンズ・ラビリンス』路線の作品だと、ジャーナリストたちの前評判から高かった。上映の直後から、大拍手。記者会見の盛り上がりもすごかった」とベネチアでの熱狂を報告した。
そして、デル・トロ監督への取材を振り返り「あれくらい知名度のある監督でも、アーティスティックな作品をアメリカで撮るのには資金集めに苦労するそうで、『FOXサーチライトとめぐり合えたことが幸運だった』とおっしゃっていた」「抑圧された人々の結びつきに興味を持ち、それは、メキシコ人としての体験というより、実感に近いものが反映されているそう」「人と人と結びつきは言語ではないということ。サリー・ホーキンスが演じる声を持たない女性イライザが象徴的で、ホーキンスにはオードリー・ヘプバーンのように演じてほしいとリクエストした」「50歳を過ぎたから撮れた作品だとおっしゃっていた」と監督の言葉や、温かな人柄を紹介し。
さらに、映画の登場人物のキャラクター設定に触れ、「監督は博愛主義だとおもう。誰が悪い人で、誰がいい人、これが幸福、これが不幸という捉え方をしない、そういう価値観の持ち主。それはクリエーションにも表れている。ハイカルチャーもサブカルチャーも同列に、好きなものを取り入れていく。国も言語も垣根を取り払った価値観はデル・トロ監督の特徴だと思う」と分析、「何度見てもトリビアの宝庫。オタク心をくすぐる映画」と評し、アカデミー賞への期待を込めながら「(既にオスカー像を獲得した同じメキシコ人監督の)アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥとアルフォンソ・キュアロンから賞を渡してほしい」と願望を語った。
森田氏は「ありとあらゆるメッセージが詰め込まれていて、ディテールにもこだわられている」「『アメリ』のようなかわいらしさも感じた。自分の殻の中でひとつのルーティーンを楽しんでいる女性が、さらにそこを破って大事なものを見つけること。そしてダイバーシティという社会的で今日的なことも含まれている。自分の心の満足感でしか本当の幸せは手に入れられないとしみじみ感じさせるラブストーリー」と感想を述べた。
「シェイプ・オブ・ウォーター」は2018年3月公開。第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。