池松壮亮と石橋静河がダブル主演した「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」が11月2日、第30回東京国際映画祭Japan Now部門で上映され、メガホンをとった石井裕也監督がTOHOシネマズ六本木ヒルズでティーチインを行った。
今作は、注目の詩人・最果タヒ氏による現代詩集を原作に、都会の片隅で孤独を抱えて生きる現代の若い男女の繊細な恋愛模様を紡いだ。死の気配を常に感じ、どこかに希望を見出そうとひたむきに生きる日雇い労働者・慎二(池松)と、看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香(石橋)は、排他的な東京での生活にそれぞれ居心地の悪さを感じていた。そんなある日、2人は偶然出会い、心を通わせていく。
石井監督は、慎二の片目が見えないという設定は「詩集を読んだときに最初に浮かんだイメージ」だと話し、「(原作に)何か見えないものを見ようとしている視線みたいなものを感じた。今回は、見るとか見ない、あるいは見えない、見ようとする、といったことがテーマになるなと。世界を半分しか見られない男、見ることを許されない男というのが最初のイメージでした」と今作のコンセプトを明かした。
また、観客からの「どん底な気分や状況から救ってくれたものは?」という質問に、「基本的には悲観的な人間ですから、悩まされることは多い。本当の意味での正常さというものがあるとして、その感覚を持っていれば、この時代に特に東京で生きるってすごくしんどく、厳しいものだと思う。感受性や感覚を殺していかないことにはやっていけないという気分はある」と慎二と美香の状況に自らを重ねる。そして「ありきたりですけど、ものを作るって楽しくて、それが心の拠りどころになっているのかな。でも映画を作っていても、苦しい時は苦しい。心地良い自殺願望なんですよ、映画を作っているときの気分っていうのは」と率直に語った。
さらに、石井監督作品における“笑い”についての質問が飛ぶと、フランスの哲学者アンリ・ベルクソンの著書「笑い」に影響を受けたことを明かし、「そこで書かれていたのが、(笑いは)人間が機械化されたとき、人間性を奪い返すための試みということ。その一文を読んだときに、これだと。俺個人が思う笑い、喜劇というのはそこにあるんじゃないかと思います」と回答。「ベルクソンは同時に、人間的と言われるものにしか笑いは発生しないと言っていて、その通りですよね。より人間臭いところに笑いが起こる。人間を描くことを指向している映画にとって、笑いや喜劇は近いところにあるという感覚でいます」と独自の見解を示した。