ルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟が1895~1905年の10年間に製作した作品群から選んだ108本で構成し、4Kデジタルで修復した映画「リュミエール!」が公開中だ。監督・脚本・編集・プロデューサー・ナレーションを兼任したカンヌ映画祭総代表であり、リヨンのリュミエール研究所のディレクターを務める、ティエリー・フレモー氏が東京国際映画祭に合わせ来日。映画の父として知られるリュミエール兄弟の作品、自身の映画に対する思いを語った。
――今リュミエール兄弟の作品を紹介する映画を作った理由を教えてください。
「まず私自身のことをお話すると、カンヌ映画祭の仕事をしながら、リヨンのリュミエール研究所でも仕事をしています。一方では現代的な映画を見て、また一方ではとても古典的な映画を見ているのです。そこで言えるのは、二つとも“同じ”ということです。リュミエールをクラシック作品という枠で捉えるのではなく、今、リュミエールの作品を見ると、現在の映画に対するまなざしを新たに作ることができるのです。リュミエール作品を見ることは、目をきれいに洗い流すような、シンプルさを再び感じるような体験になると思います。そこに何か意見を見出すということではなく、シンプルに見ること、決して評価することではないのです。今回、私自身で映画を作ったという意識はありません。あくまでも、リュミエール作品です。彼らの映画に価値を与えたかったのです。そして、彼らの作品を映画館で上映したかったのです」
――リュミエール作品のどんなところに注目して見るのがよいでしょうか?
「彼らの作品の素晴らしさは、純真無垢という部分にあると思います。何も知らない人が何かを創造するので、見る側も何の知識がなくても見ることができるのです。リュミエール兄弟は、世界をシンプルなまなざしで見ていたと思います。そのシンプルさというのは、芸術にとっては大きな長所で、そのシンプルさが、真実に手が届くことに役立ちます。ピカソは『私は子供のように人生を絵にしたい』と語っています」
――「映画は最初から大衆のものだった」というナレーションが入ります。現在、映画の果たす役割とは?
「私にとっては映画の役割は、芸術的な表現だと思います。そして世界を知るための素材で、自分自身を知る道具でもあると思います。親密であると同時に、集団でもある。フランス語のシネマという言葉は、映画という意味と、映画館という両方の意味があります。映画は産業芸術なので、お金は必要です。ヒットが要求されます。大きな予算で作られた映画が、小さな予算で作られた映画を守ります。ですから、カンヌ映画祭では、その両方が必要なのです。人生には小津安二郎の映画がなければさみしいですが、『スター・ウォーズ』がない人生もつまらないものです」
――もし、リュミエール兄弟に会うことができたらどんな話をしたいですか?
「まず、素晴らしいものを発明してくれたと感謝の気持ちを述べたいです。彼らは、気づいていなかったと思いますが、正真正銘の芸術家であったということを言いたいです。この発明によって、世界を発見することができました。その後、素晴らしい人たちがふたりの後を引き継いだ。発明当初、映画は不確かなもので、今でもその存在は繊細なものですが、世界で映画を愛する人たちが情熱を持っています。彼らに聞きたいことはないですね。彼らについて何も記録が残っていないとういことは神秘的でもあります。だからこそ、その神秘性を評価したいのです。答えをもらうより、自分でその答えを探したいのです。恋愛と同じことですね」
「リュミエール!」は、東京都写真美術館ホールほか全国で順次公開。第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。