第30回東京国際映画祭の「日本映画クラシックス」部門で、黒沢明監督の『影武者 [4Kデジタルリマスター版] 』が11月1日、EXシアター六本木で上映され、アシスタントプロデューサーの野上照代氏、音楽の池辺晋一郎氏がトークショーを行った。
本作は戦国時代を舞台に、武田信玄の影武者となった男の数奇な運命を描く約3時間の大作。1980年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した。当初、勝新太郎の主演で撮影したが、演出をめぐる考え方の違いから降板し、仲代達矢に代わった。
同じく作曲家の佐藤勝氏の降板を受けて、初めて黒澤監督作品の音楽を担当した池辺氏は「初めてお会いした時は78年で、黒澤さんは70歳で、僕は35歳。黒澤さんからは“君は僕の半分だね”と言われた。主演の仲代さんも勝新太郎さんが降りられて、代わった。仲代さんは“あの映画は、俺も君も影武者だね。相手は二人とも〝勝〟だから、我々は〝負け〟かな”と話していました」と笑う。
黒澤監督の音楽術については、「監督は“一発でつかめる音楽を作ってくれ”というんです。ムヴィオラ(編集機)でのぞかせて、このカットにトランペット、ここからティンパニーを入れようと、相談しながらやるんです。メロディは15種類作って、監督に選んでもらいました。でも、一番いいものは、最初に弾かない。8番目くらいに弾くと、“いいね”というんです。13番目に2番目にいいものを弾くと、また、“いいね”と言う。ある程度一致しますね。『夢』でも同じようにして、作りました」と明かした。
出演者の一部は、新聞広告で公募し、徳川家康役の油井昌由樹、織田信長役の隆大介が決まった。池辺氏は「隆大介が言っていたのですが、家康と対峙するシーンが大変だったそうです。オシッコに行きたくてたまらないけど、鎧を脱ぐのが大変だから、必死で我慢していた。そんな感じは全然見えないですね」。野上氏も「黒澤さんはリアリティを求めるために素人を使うんですよ。それで問題にもなることもあるけど、この2人は素晴らしかった」と絶賛した。
野上氏が絶賛するのは終盤、100頭の馬が登場するシーン。「馬死屍累累というか、馬を百頭倒した。世界広しと言えども、あんなに馬を倒したのは黒澤さんしかいない。カンヌでは“殺したのか?”と聞かれましたけど、全部、麻酔ですからね」。
海外版プロデューサーとして、フランシス・フォード・コッポラ氏、ジョージ・ルーカス氏が名を連ねているが、「2人が名前を出してくれなかったら、東宝は(お金を)出してくれなかった」と感謝。「ルーカスは編集で(馬のシーンを)“切れ切れ”と言うんです。切っても、“まだ長い”と言っていました。私は“そんなことはない”と言ったんだけども…」と語った。
池辺氏は『復讐するは我にあり』『楢山節考』など今村昌平監督作品も手がけるが、「2人とも注文が重いんですが、黒澤監督は明確で、陽。今村監督は陰ですね。音楽録音の時は何も言わないんですが、3日後に“変えろ”というんです。あの時は“いいと言ったじゃないか”というと、“その時はいいと思ったんだ”というわけです。『女衒』のときも、3日後に電話かかってきて、折れて、再録音したことがあります。どこか、ネチとしたところがありました」と話していた。
野上氏は「見るのも大変だろうけど、撮影はもっと大変でした。でも、11億円の予定が27億円を稼ぎました。それだけの力はあります。若い人にも黒澤監督作品をスクリーンで見てほしい。絶対に面白いですから」とアピールしていた。
東京国際映画祭は11月3日まで開催。