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2017.11.01 [イベントレポート]
「こうした現実の問題を描き出す作品も非常に重要です」10/28(土):Q&A『リーナ・ラブ』

リーナ・ラブ

©2017 TIFF

 
10/28(土)、ユース TIFFティーンズ『リーナ・ラブ』の上映後、シュリンゲル国際映画祭 フェスティバル・ディレクターのミヒャエル・ハーバウアーさんをお迎えし、Q&A が行われました。司会はTIFFティーンズ プログラミング・アドバイザーの田平美津夫さんです。⇒作品詳細
 
TIFFティーンズ 田平美津夫プログラミング・アドバイザー(以下、田平PA):今回は、ドイツで開催されている子ども映画祭の「シュリンゲル国際映画祭」でフェスティバル・ディレクターを務めているミヒャエル・ハーバウアーさんにお越しいただいています。シュリンゲル国際映画祭で取り扱うすべてのユース作品のプログラミングを担当されています。ぜひ彼と、『リーナ・ラブ』についてお話しいただければと思います。シュリンゲル国際映画祭では『リーナ・ラブ』のような作品を、15歳以上を対象に上映しているようなのですが、その様子などについて伺ってみたいと思います。
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:シュリンゲル国際映画祭では、子ども向けの作品だけではなく、様々な年代の観客へ向けた作品を上映しています。作品を選考する上で大事にしているポイントは、実際に作品を見るオーディエンスが共感できる作品、考えさせる作品であることです。『リーナ・ラブ』は映画祭では特に15~16歳の高校生にターゲティングして上映しました。上映後には高校生の観客から、非常に信ぴょう性が高く、また観賞してよい経験になったという評価をもらいました。監督のフロリアン・ガーグとは知り合いで、特に監督自身の経験を参考にした作品かどうかの言及があったわけではないのですが、私が見ている限りでは、本作は監督の自身の経験に基づいた部分が多く盛り込まれているのではないかと感じます。舞台設定に関しても、ミュンヘンには実際に作中に登場するようなスプレーで描かれたグラフィティ・アートが街中でたくさん見られます。
 
田平PA:それではさっそくディスカッションを始めていただければと思います。ご質問のある方はどうぞ。
 
Q:東京国際映画祭では昨日も『飢えたライオン』という作品の上映があり、本作と同様に高校生の間で起こるSNS関連の問題を取り扱っていました。日本ではSNS関連の犯罪や、青少年が加害者や被害者としてその当事者になることについて問題が取り上げられていますが、ドイツでも同様に青少年とSNSによる事件がどの程度問題になっていますか?
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:シュリンゲル映画祭で本作を観賞した若者の意見として、こうしたSNS絡みの問題や犯罪は現実に起こりうることを自分たちは知っている一方で、大人たちがそのリスクに気づいていないのではないかというものがありました。そうした観点から、映画祭で本作を上映し、年配の方々がこうした問題を知ることには意味があると言っていました。本作の中でも、問題が生じたきっかけの一部は登場人物の母親にありましたが、そうした青少年を子供にもつ父親・母親世代向けにこうした問題を発信する意味は大きかったと思っています。また本作は、ほとんど全員が知り合い同士というほど非常に小さな町の中でストーリーが展開していきますが、実際にオープンスペースであるネット上の出来事が現実とつながらないという問題点も提起されています。例えば町の中ではみんなが知り合いなのに、SNS上では誰が何を書いているかわからない、という構図は実際に世界中の小さなコミュニティで問題になりうるのではないかと感じます。シュリンゲル映画祭ではこうした若者とSNS関連のテーマを題材とした作品を10本~20本くらい上映しているのですが、観賞した若者からは上映後すぐではなく、数時間後や数日後に改めて作品に関するフィードバックが来ることが多くあります。
 
田平PA:ありがとうございます。逆にミヒャエルさんから観客の皆さんに聞いてみたいことはありますでしょうか。
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:皆さんは、日本でも本作で描かれたような物語は実際に
起こりうると思いますか。インターネットが現実世界とかけ離れたものとして存在し、現実社会に悪影響を与えるような現象が起こる可能性はありそうでしょうか。
 
田平PA:いかがでしょうか。どなたかお答えいただける方はいらっしゃいますか。
 
観客:十分あり得ると思います。
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:回答ありがとうございます。私も十分あり得ると思っていましたが、確信を持てなかったので質問してみました。追加になりますが、日本でも作中に描かれたように、特に40代以上の方々がSNSを利用する際の注意点を認識しておらず、問題が生じるという可能性はありますでしょうか。例えばログイン用のパスワードのような情報を紙に書いて放置してしまう、といったものです。こうした行為のリスクに年配の方々の認識が足りていないという傾向はありそうでしょうか。若い方々にはあまりそうした傾向はないだろうと思いますが。
 
観客:割とあります。(会場笑)
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:ありがとうございます。私や私より上の世代の方々は、どうもインターネットが封鎖された空間かのようにとらえている傾向があると感じます。例えば何か情報を発信しても、その場に情報は限定され、それ以上広がらないと考えている気がします。しかし実際にはそうではなく、SNS上の情報はオープンな場に発信されたものであって、現実に周囲の人々へリスクや影響を及ぼしかねないものです。私はある意味では、こうした作品は年配の方々向けの教育として役立てばよいと思っています。実際にシュリンゲル国際映画祭では、観客の高校生たちが本作について高校の先生と話をしたというフィードバックもありました。シュリンゲル国際映画祭には小学生以下の子ども向けの作品の部門や、中学生以上の青少年を対象とした作品の部門など、様々なプログラムが設けられており、この『リーナ・ラブ』はユース部門において高校生を対象に上映しました。通常はコンペティション作品でなければ、映画祭会期中は同一作品を1回しか上映しないのですが、本作は6回上映をしました。なぜなら多くの高校生から、本作をもう一度観賞したいという意見や、他の学校の友人などにも見せたいという意見、そしていろいろと本作について話し合ってみたいという意見がたくさん集まったためです。結局「リーナ・ラブ」は、映画祭の歴史でも最も多くの上映回数を記録した作品の1つになりました。
 
田平PA:本作の上映後、観賞した高校生からの質問やフィードバックの中にはどのような具体的に意見があったのでしょうか。
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:観賞後の青少年と行ったディスカッションで一番多かったテーマが、本作で描かれている問題は実際に起こりえるのか、信憑性は高いのか、というポイントでした。そしてディスカッションに参加した高校生は全員ではないものの、大半が「実際に起こりえる」という意見をもっていました。彼らからは、例えばSNSの偽アカウントを作ったり、フェイクニュースの書き込みをしたりしている友人がいた、SNS上の投稿によって誰か特定の人を攻撃している場面を見た、いうコメントがありました。一方で面白かったのは、そのディスカッションに参加していた学校の先生が「こんなことは起こりえない」という真逆の意見を挙げたことです。高校生はそれに対し「起こりえる」と主張し、世代間での見解に明確なギャップが生じる結果となりました。
 
Q:この作品は劇場での興行的なヒットを目的に作られたのか、SNSの問題点を啓蒙するために作られたのか、どちらでしょうか?
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:『リーナ・ラブ』は今挙げていただいた両方の側面を持ち合わせるように作られました。というのも、作品にメッセージ性を伴わせる上では、物語を伝えるためにある程度のエンターテインメント性が必要になってくるためです。本作はフロリアン・ガーグ監督とテレビ局の共同製作によって作られましたが、テレビ局はメッセージ性を重視する一方、ガーグ監督はメッセージ性だけではなく多くの人に観賞してもらわなければ意味がないと考えており、双方の意見をすり合わせする形で作られていきました。劇中では音楽も頻繁に用いられていますが、これらの音楽は監督が自身で制作したものです。
 
Q:実際の公開時には、どちらの側面を打ち出す形で宣伝されたのでしょうか?
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:マーケティング時にはSNSの問題点を提起したメッセージ性の強い作品として公開されましたが、実際には興行的にあまり芳しい結果は得られませんでした。一方でシュリンゲル国際映画祭では、観賞した学生たちから追加上映の要望があるなど高い評価を得ました。ドイツ国内では大手の配給会社のサポートを得られず、結果としてテレビでの上映もされないという結果になりました。そのため、当初のメッセージ性が強さを打ち出した広報戦略は失敗だったのではないかと捉えており、ハリウッド作品のようにエンターテインメント性を表に出した方が興行的な成功を生んでいたかもしれないと考えています。またドイツ国内の映画事情について補足させていただくと、ドイツ人は映画館へ映画を見に行く際には、ハリウッドのエンターテインメント性の高い作品を選ぶ傾向にあります。そのため、通常の生活の中でドイツ映画を国内で多くの方に見てもらうのは難しいのです。そこで私たちは、ドイツ国内の映画祭を、ドイツ人がドイツ作品に触れる貴重な機会にしていきたいと考えています。特にシュリンゲル国際映画祭は、青少年や学校との交流も重要な使命の1つとして捉えており、映画祭の日は学生は授業なしに映画館で映画を1~2本の作品を見て過ごすことになっています。ドイツ作品をドイツの若者に見てもらい、さらにはディスカッションまで行うことで、観客に製作時の背景などを知ってもらい、ドイツの映画も面白いと気づいてもらいたいと思っています。前回のシュリンゲル国際映画祭では、小学生向けに日本のアニメ作品を上映しましたが、その作品のディスカッションではドイツの小学生から監督への質問が1時間半くらい途絶えないという盛況を見せていました。
 
田平PA:ありがとうございました。惜しいところですがQ&Aのセッションは以上とさせていただきたいと思います。シュリンゲル国際映画祭で行っている特定の観客とのディスカッションは非常に面白い取り組みと考えていて、将来的には青少年の来場者の方が作品を観て感じたことを意見交換できる場として取り入れたいと考えています。もし本日も会場の中に高校生の方がいれば、短めの質問を受けたいと思いますがいかがでしょうか。
 
観客:こうしたSNSを題材にした作品を初めて観賞し、大変参考になりました。内容も非常にショッキングでしたが、楽しく拝見するとともに、提起された問題点について深く考えさせられました。
 
ミヒャエル・ハーバウアーさん:素敵な意見をありがとうございます。こうして作品を日本で上映することで、ドイツ社会の中で起こる問題を伝え、双方の文化交流につながったりする効果があると感じました。ハリウッドで作られる夢のような作品も素晴らしいですが、こうした現実の問題を描き出す作品も非常に重要だと思っています。また素晴らしいドイツ作品を日本のみなさんに見ていただける機会を設けられればと思っています。本日はありがとうございました。

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