10月25日の開幕から連日賑わいを見せている第30回東京国際映画祭は、今後の日本映画界を支えていくであろう新たな人材にとって刺激的な出会いの場ともなっている。「乃木坂46」を卒業し不退転の覚悟で女優へと転進した深川麻衣は、主演作「パンとバスと2度目のハツコイ」が特別招待作品として同29日にワールドプレミア上映。一方、資生堂やソフトバンクなど数々のCMを手がけてきた森ガキ侑大にとって長編監督デビュー作となった「おじいちゃん、死んじゃったって。」も、同日に日本映画スプラッシュ部門で公式上映を果たした。
深川の銀幕デビュー作となった「パンとバスと2度目のハツコイ」は、恋愛映画の旗手といわれる今泉力哉監督の最新作。パン屋で働く市井ふみ(深川)がある日、中学時代の初恋の相手・湯浅たもつ(山下健二郎)と偶然再会するところから始まる。ふみはプロポーズされたものの結婚に踏ん切りがつかず元カレと別れたばかり、たもつは離婚した元妻のことを今でも忘れられない……、“こじらせ”まくる2人が織り成す恋愛群像劇。原作・脚本を山崎佐保子が手がけた森ガキ監督の「おじいちゃん、死んじゃったって。」は、主演に進境著しい女優・岸井ゆきのを迎えた。祖父の葬儀をきっかけに、それぞれの事情を抱えた家族たちが久しぶりに顔を揃え、本当の家族として未来へと踏み出していく様子を瑞々しく描いている。
2人はそれぞれの作品を鑑賞した直後の顔合わせとなったため、矢継ぎ早に感想を伝え合うなど、初対面とは思えないほど息もぴったりの様子だ。
森ガキ「すごく楽しませていただきました。劇中で深川さんが見せる顔が全然違っていて、こんなにも表情が変わる女優さんってなかなかいないなと思いながら拝見していました」
深川「本当ですか? ありがとうございます。きょうが初めての上映で、お客さんの感想もまだ聞けていなかったのでドキドキしちゃいました。森ガキ監督の作品は、出だしから衝撃でした。おじいちゃんが亡くなる事って家族にとっては悲しいことですが、久々に集まった家族のキャラが強くて……。感情をむき出しにしているシーンもたくさんあって、そのギャップが興味深かったです。お葬式だからこそ、それが際立つというか。私のおじいちゃんは、父方と母方が2日連続で亡くなったんです。まだ中学生くらいだったから、恥ずかしさもあって泣けなかったんです。逆に人の生死とか分からないはずの幼い従妹が大泣きしていたのを覚えています。理解はできなくとも、感覚的な部分で理解していたのかなあって考えたのを覚えています」
「おじいちゃん、死んじゃったって。」では、身長150センチに満たない主演の岸井が“座長”としての役割を立派に果たし、岩松了、光石研、美保純、水野美紀といった経験豊富な演技派に負けない存在感を放っている。だが、近年着実にキャリアを積み重ねてきた岸井にとっても、今作が映画初主演。深川にとっては、どのように映ったのだろうか。
「サバサバとはちょっと違うのですが、クールに見えるけど、そんなに人のことを見放していないっていうお芝居がすごく素敵でした。タバコを吸うシーンもそうだし、『みんな泣いていなかった』って口にするくだりとか結構熱いところも見せてくれて、魅力的で格好いいなと思いましたね」
続いての話題は、“演出”について。まず、森ガキ監督が「監督によって本当にいろんなタイプがいますよね」と口火を切る。「僕は、自分のフィルターを男性にしてしまうと自分自身を表現しているようで恥ずかしくなっちゃうので、割と異性にそれを託すようにしているんです。だから、主人公は女性が多い。自分が思っていること、やりたいと思っていることを男性のまま演出してしまうと、なんだか恥ずかしくなっちゃうんですよね」と朗らかに笑う。
脚本の読み込み方について聞かれた深川は、「今泉監督は言いやすいように言い換えてとはおっしゃってくださったのですが、あまり自分の視点で考えていくと役ではなく自分になってしまう。なので、違和感を覚えるところがあった場合は、その背景とかを想像して、どう思ってこの言葉を言うんだろうと考えるようにはしています。違和感を持ったままだと、嘘っぽくなっちゃうので」と真摯な面持ちを浮かべた。
また、2人が出会うきっかけとなった東京国際映画祭に対しては、どういう印象を持っているのだろうか。
森ガキ「初めて呼んでいただいたのですが、新鮮で楽しいですね。レッドカーペットを歩くことにしたって、ちょっと親に自慢できるというか(笑)」
深川「レッドカーペットを歩ける機会なんて、人生でなかなかないですよね。着用したドレスは、当日まで迷っていたんです。白黒にしようか、グリーンにしようかって。会社の方々にも見ていただいて、結局グリーンになったんです。(カーペットの)レッドと対になっていて良かったかなって」
森ガキ「すごく目立っていて素敵でしたよ!」
満面の笑みをたたえながら力強い握手を交わし、「いつかお仕事をご一緒しましょう」と約束していた2人。それが深川主演の森ガキ監督最新作で、東京国際映画祭コンペティション部門に選出されるような日が来ることを、願わずにはいられない。