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2017.11.01 [イベントレポート]
「様々なものに追い詰められ、傷つけられ、結果として周囲を傷つけてしまう境遇をタイトルに込めました」10/28(土):Q&A『老いた野獣』

10/28『老いた野獣』Q&A

©2017 TIFF
(左から)俳優のワン・チャオペイさん、チョウ・ズーヤン監督、女優のワン・ズーズーさん

 
10/28(土)、アジアの未来『老いた野獣』の上映後、チョウ・ズーヤン監督、出演のワン・チャオペイさん、ワン・ズーズーさんをお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細(次回上映11/1・16:50~)
 
チョウ・ズーヤン監督:本日はありがとうございます。私は本作の監督を務めたチョウ・ズーヤンです。本日が初めての海外での上映となります。
 
ワン・ズーズーさん:日本のみなさんこんにちは。この映画に出演したワン・ズーズーと申します。劇中ではリリという役で出演しました。
 
ワン・チャオペイさん:こんにちは、私は主人公の長男ヤン・ビン役を演じましたワン・チャオペイと申します。本日、私も皆さんと一緒に初めて全編を通して拝見しました。
 
Q:今年の台湾・金馬奨(Taipei Golden Horse Film Festival)では多くの部門にノミネートをされている作品ですが、監督は学校などで正式に映画を勉強した経験がないとお伺いしました。
 
チョウ・ズーヤン監督:学生時代は工業デザインを専攻していました。ただ、高校時代から非常に映画が好きで、短編映画作りを楽しんでいました。高校を卒業して10年くらいが経ちますが、映画に関連した職業に就きたいと思う一方で、資金集めるための曲折もあり、この度、ようやく第一作となる本作を発表できたという次第です。
 
Q:俳優のお二人に伺いたいのですが、本作でチョウ・ズーヤン監督とお仕事をご一緒された印象はいかがでしたか?
 
ワン・チャオペイさん:チョウ・ズーヤン監督とは今回初めて仕事をさせていただきました。仕事が始まる前に二度ほど打ち合わせをさせていただいて、カメラ映りのチェックなどを行いましたが、監督は非常に役者を信じてくれるタイプの方なんだなと感じました。現場でも細かな指示をするようなことはなく、現場でのリズムをきっちり把握して雰囲気づくりをしてくれる方です。そして俳優が、自身の力を活かして、余計なことを考えずに役作りに没頭できるよう配慮してくれる監督でした。
 
ワン・ズーズーさん:現場での監督の様子は、いまワン・チャオペイが話してくれた通りですので、私から監督の生活面に関して紹介します。監督は普段から偉そうな素振りをすることもなく、私のような俳優にもフラットに接してくれる、非常にやさしい心をもった、人付き合いの上手な方です。私は学生時代に四年間、演技や監督業について学んだのですが、チョウ・ズーヤン監督の人を統率する力や、現場をまとめる力の高さには非常に驚かされるばかりでした。チョウ・ズーヤン監督からは、こうした監督業のようなものは学校で学ぶものではなく、自身の実体験や経験から体得をしていくものだと教えていただきました。また、皆さんも作品をご覧になってお判りになっているかもしれませんが、作品からはチョウ・ズーヤン監督の技術の高さだけではなく、彼の考え方や道徳観などを深く読み取ることができると思います。例えば、彼が伝統文化をどのように大切に思い、どのように後世に引き継いていったらよいと考えているか。近年はハイテクが巷に溢れていますが、この作品を通して伝えようとしていることは、内モンゴル自治区の方々が実生活でどのようなものを実際に求めているか、ということなのです。チョウ・ズーヤン監督は自身のものの見方や考え方を非常にしっかりと持っていて、それらを映画に関する高度な技術を駆使して表現できる方です。私はそんな彼を心から尊敬しています。
 
Q:主人公は、なぜ本当に大事にしなければならないものを大事にできなかったのか、結果として家族以外のものにのめりこんでいくことになってしまったのか、作品をつくる上でのお考えのようなものがあればお聞かせいただければと思います。
 
チョウ・ズーヤン監督:本作は、実は私がよく知っている人の話で、子供たちが父親を拉致したという出来事にヒントに作りました。私はその話を聞いて非常に衝撃を受けました。私の生まれ育った内モンゴル自治区のオルドス市という地域は、この10年で非常に著しい経済発展を遂げました。一方で、数年前に不動産バブルが崩壊し、莫大な損失を被った方もいます。町全体がそうした激動を体験する中で、これまではあまり見えてこなかった人々の醜い部分や影の部分が見えてくるようになりました。例えば、人々はもちろん伝統的な道徳心を持ち合わせているはずなのですが、その一方で、経済的な豊かさやお金に関するものを大人たちが優先するようになってきて、かつての伝統的な人間関係を重んじる価値観は今の子供たちの世代に受け入れられなくなってきました。最もファンダメンタルで密な人間関係はいまでも親子関係であると考えられていますが、結果それすらも薄れてきてしまっているように感じています。これは現代ならではの問題だと捉えています。
私は、この作品を通じて考えてほしいことが二つありました。一つめは時代が変わり、経済的な価値をもつものばかりが尊重されるようになっていってしまうことで、人々の道徳観が劣化していくこと。そして、二つめはそれにより人々の関係性が希薄になっていくことで、民族性が失われて行ってしまうことです。私は作品の中で今の時代や、その中で生きている人を描きたいと思っていました。登場人物は自身の行動に、それぞれに自分なりの理由をもっているのですが、一方でその理由と、自身のもつ道徳観との距離感やジレンマに苦しむ様子も伝えたいと考えていました。
 
Q:三女のもとを訪れた帰りのバスの中で、たばこの包みにある銀紙を鼻につめるシーンがありました。何かのおまじないかと思ったのですが、あのシーンにはどのような意図があったのでしょうか。
 
チョウ・ズーヤン監督:そのシーンはおまじないでも何でもないのです。実は、あのシーンで彼は鼻血が出たにもかかわらずティッシュペーパーなどの紙を持ち合わせていなかったので、その場にあった紙で止血をしようとしたというシーンなんです。彼が最も大切に思っていた末娘がくれた煙草だったので、大事にしていたいという気持ちがあったものの、その前のシーンで非常に傷ついていたこともあり、仕方なく紙を破って止血に使ったという場面を表現しています。
 
Q:英語タイトル「Old Beast」は、主人公がまるで獣のように家族をきちんと慮ることもなく年を取ってしまったことを示している一方で、内モンゴル自治区では人々の生活の中に多くの動物たちが存在していたことを示しているようにも感じました。タイトルに込めた意味があれば教えてください。
 
チョウ・ズーヤン監督:中国語でのタイトルは「老獣」と書きます。この映画で描かれている重要な対象は<植物><動物><都市><人>の四つなのですが、そこに生息する植物や動物はその土地に住む人々を表すものだと思っています。例えば、作中では内モンゴル自治区特有のとげとげしい植物を描いていますが、これは現代の内モンゴル自治区に見られる、周囲や他人を傷つけ押しのけて自身の生存を長らえる人々を象徴していると思っています。また動物に関しては、主人公のヤンさんが傷ついた鳥を逃がすシーンがありますが、この鳥は人々と同様に、もしくは人々以上に傷つけられている動物として描写しています。こうした植物や動物のように、様々なものに追い詰められ、傷つけられ、結果として周囲を傷つけてしまう主人公を、年老いた獣としてタイトルに表現しました。

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