第30回東京国際映画祭の特別企画として、『ゴジラ』シネマ・コンサートが10月31日、東京・有楽町の東京国際フォーラムCで行われ、『ゴジラ』シリーズの富山省吾プロデューサー、岩瀬政雄音楽プロデューサー、『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督がトークショーを行った。
シネマ・コンサートは、映像はそのままに音楽はオーケストラが生演奏するという最近人気の体験型の上映スタイル。1954年に公開された第1作「ゴジラ」(監督・本多猪四郎)の上映に合わせて、伊福部昭氏が作曲した劇中曲全曲を、直弟子で作曲家の和田薫氏が指揮し、東京フィルハーモニー交響楽団が演奏する。
海外作品では「スター・ウォーズ」「ラ・ラ・ランド」など多彩なラインナップがあるシネマ・コンサートだが、日本映画では「ゴジラ」と「砂の器」(1974年)のみ。シネマ・コンサートのプロデューサーでもある岩瀬氏は「海外では音楽、セリフ、効果音など別々に録音しているが、日本では悲しいかな、いっしょくたにしている。ミックスされた音から、音楽を外してどこまでできるかが難しいんです」と説明した。第1作「ゴジラ」の音楽録音については「聞いた話では、伊福部先生はスクリーンに映像を映して、タイミングを合わせて録るというやり方だったそうです。シネマコンサートは、まさに昔やっていた音楽録りをやっているような感じです」と明かした。
富山氏は平成ゴジラシリーズでの伊福部氏の再登板について、「僕のボスの田中友幸プロデューサーは、84年の『ゴジラ』で新しいことをやろうと音楽も新しくしたわけですが、『ビオランテ』の時に伊福部さんのテーマ曲だけ使わせてもらったら、やはり、伊福部先生のテーマ曲がゴジラにふさわしいということが改めて分かり、『キングギドラ』の時にお願いに行ったんです。先生は『もう新しい人がやるべきと思いますよ』とおっしゃったのですが、『劇場で見た人はみんな、先生の音楽が素晴らしいと言っています』といい、引き受けてもらいました」と明かした。
復帰の条件は“一発録り”。富山氏が「私としては過去のシーンが再現されるのだと、ワクワクしました」というと、岩瀬氏は「機材を持ち込むので、そのやり方の方が遥かにお金がかかるんですよ」と話した。
「シン・ゴジラ」で伊福部さんの曲を使った樋口監督は「総監督の庵野秀明は脚本の段階で『宇宙大戦争』(1959年)M32と書いていた。脚本段階で曲が流れていたんだと思う。私的には『モスラ対ゴジラ』の方が合っているんではないかと思っていた。『宇宙大戦争』とはなんだ、と思いますよね。『ゴジラ』ですらない。でも、その気持ちは痛いほど分かる。理由はかっこいいから」と笑い。
シネマ・コンサートので音楽は一部オリジナルとは異なる演奏をするという。岩瀬氏は「映画だと、カットアウトする時に、ボリュームが下がるのですが、生演奏ではそれが難しいんです。一番違うのは東京湾沿いに高圧電流を流すシーン、レバーを下げるところで音楽は切れる。実は伊福部先生はシーンいっぱいまで書いていた。カットアウトは不自然だから、そのまま演奏しても失礼ではないのでは、と思っています」と話した。
あらゆるメディアで第1作「ゴジラ」を見て、前回のシネマ・コンサートにも参加した樋口監督は「今までのメディアはすべて光学録音なんです。それでは聞ける範囲が限られているんです。今回はダイナミックレンジが広い。ハレの曲、張った曲は当然いいんですが、そこではなく、ラスト前、焼け野原で子どもたちが泣いているシーンで、心を鷲掴みされました。純粋に感動した。音楽の力って、今までは埋もれていた部分があったと思うんですが、それが鮮やかに蘇った」と力説していた。
最後に、富山氏は伊福部氏について「『ハリー・ポッター』の校長先生のような人。博学ですべてを知っている。伊福部先生は、映像は瞬間で描けるけれども、音楽には長さが必要とおっしゃっていた。『だから、音楽家はオープニングとエンディングの編集には意見が言えるんです』と。そういう意味で、本当に映画音楽を熟知された方でした」と締めた。