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2017.10.31 [インタビュー]
「同性愛を扱っただけではなく、民族も違うもっと広い意味で多様性を描きました」公式インタビュー アジアの未来部門 『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』

アリフ、ザ・プリン(セ)ス

©2017 TIFF

東京国際映画祭公式インタビュー 2017年10月26日
アジアの未来部門『アリフ、ザ・プリン(セ)ス
ワン・ユーリン(監督)、ウジョンオン・ジャイファリドゥ(俳優)、チャオ・イーラン(女優)、マット・フレミング(俳優)
 
少数民族・パイワン族の族長の息子として生まれ、台北で美容師として働くMtFのトランスジェンダー、アリフ。彼女は女性として生きるために、性適合手術を望んでいる。そんな彼女にとって、同居人で同僚のレズビアン女性・ペイチェンは心の支え。ある日アリフは、ダンサーの青年クリスに恋をするが、彼には妻が。ショックを隠しきれないアリフの前に、郷里から父親が突然訪れ、自分の跡継ぎになることを求めてくる。LGBTQをテーマに、さまざまなセクシュアリティ、ジェンダー、そして民族の共生を描く『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』。東アジアでもっともマイノリティの人権先進国と言われる台湾からこのような作品が出ることは、非常に意義深い。同性婚の正式な制定も間近となっている台湾の状況、そしてこの映画が果たす役割を、監督と出演者に伺った。
 
 
――今もっともホットな人権問題でもあるセクシャル・マイノリティ。それに台湾の少数民族という、これまた人権問題を有する人物設定ですね。この設定はどうやって思いついたのでしょうか?
 
ワン・ユーリン監督(以下、ワン監督):私が20歳くらいのころ、映画の監督を目指そうと思い立った時から、自分のまわりには異性愛者だけではなくて、同性を愛する人たちがいっぱいいることに気付きました。当時は若かったので、男と男、女と女、お互いに愛し合うのはなぜなのか疑問に思ったものです。でも、性別にかかわらず、ひとりの人なのだということが分かってからは、彼らへの偏見というものはどこかへいってしまったんです。ちなみにそのきっかけをくれたのは、23歳で徴兵で軍に従事していた時に出会った男性の霊媒師からでした。
アリフ、ザ・プリン(セ)ス
 
――台湾では政権が変わり、同性婚の制定準備をされていますよね。それは、東アジアの中でもっとも「セクシュアリティ・マイノリティにとって開けた国」となることを意味します。そのことについてどう思っていらっしゃいますか?
 
ワン監督:いちばん開放的というよりは、いちばん淫らな国ですかね(一同笑)。
 
――淫らということでは日本のほうが上ですよ(一同笑)。失礼なこと伺いますが、皆さんのセクシュアリティは?
 
ワン監督:私自身はストレートですが、この映画をきっかけにゲイに変えようかなと(笑)。私の周りには同性愛者の友人がとても多く、みんなとても才能の豊かなアーティストで、人に対してもとっても優しい人たちなんですね。彼らはとても尊敬すべき人たちです。
 
チャオ・イーラン(以下、チャオ):この作品を観終わって新たに認識したんですが、私が演じたペイチェンと同じく、私もレズビアンかなと思います。
アリフ、ザ・プリン(セ)ス
 
ウジョンオン・ジャイファリドゥ(以下、ウジョンオン):僕自身はどちらも。愛に限界はありませんし、線引きはないというふうに感じています。ひとりの人を好きになったら性別はどっちでもいいと思いますね。とてもきれいな素敵な女性に出会ったら、その人のことをたぶん好きになると思いますし、作品の中のアリフとペイチェンの関係もすごく理解できます。
アリフ、ザ・プリン(セ)ス
 
マット・フレミング(以下、フレミング):僕は今まで愛した人は全員男性だったので、ゲイですね(笑)。
アリフ、ザ・プリン(セ)ス
 
――みなさん、このように台湾がどこよりも先進的になったことについてはどうお考えですか?
 
ワン監督:そのことがまさにこの映画を撮った理由のひとつでもあります。じつは台湾でもまだ、年配の人たちの中にセクシュアル・マイノリティへの抵抗がある人が多いですし、宗教的な観点からも反対する人が多いんです。それは理解が行き届いていないから、理解できないことに対する恐怖を感じているだけなんです。その点で、理解を深めてもらうための助けになる映画に育ってくれればと思っています。ただ、この作品は同性愛だけを扱った映画ではありません。もっと広い意味での「多様性」を描いています。
年齢も職業も民族も違う人たちの間で、みんな同じように「愛」を巡って困惑し、悩み、生きているということ。それはどんな人であろうと同じことじゃないですか。そういったことを描きたかったのです。ここに来ている出演者たちを見ていただければわかるように、漢民族、少数民族、白人もいるわけで。この構成によりこの作品が何を描きたいかが、すでに現れているわけです。
 
時代そのものがジェンダーを超えたところに向かっている
 
――本当に多様な顔ぶれですよね。皆さんは今の台湾の状況をどう思われていますか?
 
チャオ:同性婚は単に性的な要素だけはない、様々な理由があって法律的に認められようとしています。たとえば財産分与だったり、パートナーが病気になった時に家族として認められるかとか。いわば人間の命、人生、人権に関わる問題があると思います。台湾ではLGBTQのさまざまなデモがありまして、そういったものを扱った映画が出てくるたびに、彼らは政府に対して要求してきたわけです。私としては、まもなくそれが成立するということで、とても良かったと考えていますし、ちょうどこの時期にこの映画が出来上がって、そして東京で皆さんに観て頂けることが非常にうれしいです。
 
ウジョンオン:時代そのものがジェンダーを超えたところに向かっているような気がしますね。昔、アメリカで黒人の人権運動が大きく盛り上り今日まできましたよね。同性婚についても長い間、避けられていた問題でしたけれど、やっと法律的に認められるようになって、みんなの理解が進んだと思います。僕の考えとしては、男同士であれ女同士であれ、ふたりの間の愛というのは、それは「愛」に違いない他の何ものでもないと思います。
だって男女の異性間であっても、お金のために結婚をするとか、子供のためだとか、あまりピュアじゃない目的のために結婚をすることもあるわけで。ロミオとジュリエットのように純粋に愛し合うふたりであれば、結婚するのは自然なはずだと思います。男女関係なくお互いに認め合うということ、そのまわりの人たちもそれに対してちゃんと思いやりをもって理解することが大事だなと思っています。
 
フレミング:僕は20歳から8年、台湾に住んでいますが、もともとはイギリス人なので、ふたつの国を比較してみることが多いんです。まず、イギリスは歴史ある古い国ということもあり、同性間の結婚についても変化の速度が遅く感じるんですよね。保守的な国民性ですから、新しいことを受け入れることがなかなか難しいんだと思います。一方で、ここ数年の台湾の変化は同性婚の件だけでなく、社会問題に対してものすごく速い対応をしていると感じています。変化に対してすぐに受け入れられるという台湾の特性からすると、同性婚の受け入れは馴染みがあるというふうに感じています。
 
――台湾では今日(2017年10月27日)が公開日ですよね?
 
ワン監督:そうなんです。仕事が終わったら急いで帰りますよ。
アリフ、ザ・プリン(セ)ス
 
――しかも、この初日の翌日に、アジア最大のLGBTQのイベント、台湾LGBTプライドのパレードがありますよね。
 
ワン監督:じつはそれに合わせて公開日を決めました。この映画はゲイムービーではないけれども、やっぱりお互いに協力し合っていると思います。彼らを応援していますよ。
 
(取材/構成 よしひろまさみち 日本映画ペンクラブ)

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