第30回東京国際映画祭の国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA部門のドキュメンタリー「ヤスミンさん」が10月28日、TOHOシネマズ六本木ヒルズでワールドプレミア上映され、ヨドモンド・ヨウ監督、出演した行定勲監督、女優・監督のシャリファ・アマニがQ&Aに登壇した。
「ヤスミンさん」とは、マレーシアの女性監督、故ヤスミン・アフマドのこと。2003年のデビュー以来、6年間で6本の長編を製作。東京国際映画祭では「細い目」(04)が最優秀アジア映画賞、「ムアラフ 改心」(07)がアジア映画賞スペシャルメンションに選ばれた。また、最高傑作と言われた「タレンタイム 優しい歌」(09)が今年3月に日本公開され、話題になった。
映画祭で企画した「アジア三面鏡2016 リフレクションズ」の1編だった行定勲監督の「鳩 Pigeon」のプロデューサーだったヨウ監督は当初、同作のペナン島ロケのメイキングとしてカメラを回したが、途中から「ヤスミンさん」の軌跡をたどる旅へと横滑りする……という内容だ。行定監督は「これはメイキングじゃないよね。ヨドモンドはすごく助けてくれたんですが、プロデューサーではなかった。もっとプロデューサーやってくれよ、とは思いましたね。ただ、大切な記録になったので、悔しいことに感謝している。映画はこういう風に生まれていくものだなと思った」と複雑な表情だ。
ヤスミン・アフマド監督作のミューズであり、「鳩 Pigeon」では「ヤスミン」という役名で出演したアマニは「とてもスイートなことですね。ヤスミンに会ったことがないエドモンドの目を通じて描かれている。監督の名前、作品はマレーシア人だったら誰でも知っている。初めて会っても、そんな気がしない。そういう女性でした」と振り返った。
ヨウ監督は「もともとメイキングを撮る人がやめてしまったので、自分が撮り始めた。でも、アマニさんに、ヤスミンさんへの思いを聞くうちに、みなさんの思いを伝えたいという強い気持ちに駆られたんです」と明かした。
映画誕生の背景については「僕が(オーストラリアの)パースの大学に通っていた頃の話をしないといけない。生まれて初めて祖国を離れて、寂しかったんだ。そこで、大好きな日本の映画を見ていた。行定監督の映画も見ていた。そんな時、ヤスミンさんの映画が東京国際映画祭で受賞して、びっくりした。マレーシアの監督が世界の映画祭で受賞するのはこれまでなかったから。実を言うと、ヤスミンさんの映画は最初の3本しか見ていない。『タレンタイム』も見ていない。僕にとっては、パースからの長い旅路みたいものなんです」と話した。
日本での一般的な知名度は低いアフマド監督について、「古い作品が多いので、デジタル化しないといけない。権利を持っている方の問題もあるかもしれない。映画祭で特集上映をやって、広げない、と。『タレンタイム』は日本でも人気だし、エドワード・ヤンもデジタル化で広がった」と行定監督。初期の傑作「クーリンチェ少年殺人事件」のデジタルリマスター版の上映で再ブレークした故エドワード・ヤン監督の例を挙げた。
アフマド監督の祖母は日本人。祖母をモデルにした「ワスレナグサ」という作品も準備していた。行定監督は「2人が『ワスレナグサ』を作るというなら、サポートしたい」と協力を買って出た。