第30回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス」に出品された『イスマエルの亡霊たち』の上映が10月28日、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、アルノー・デプレシャン監督が観客からの質問に答えた。
「そして僕は恋をする」などで知られるフランスの俊英デプレシャン監督の新作は、期せずして奇妙な三角関係に陥った映画監督の日常と、彼の創造する映画とがモザイク状に組み合わさった愛のドラマ。今年5月に開催された第70回カンヌ国際映画祭ではオープニング作品に選出されており、そこでは114分の短縮バージョンが上映されたが、今回は134分の「ディレクターズカット版」での上映となった。
マチュー・アマルリック演じる主人公のイスマエルが映画監督ということで、観客からは「自身をモデルにした?」という質問が投げられたが、それにはデプレシャン監督も「今まで映画監督を主人公にしたことはありませんでした。マチューもわたしも、イスマエルのような監督にはなれないんです。そもそもイスマエルは過激で気まぐれで、失礼な男でもある。マチューもわたしも慎重な男だし、薬をのまずに、健康にも気を付けていますからね」と笑ってみせた。
本作はアマルリックをはじめ、シャルロット・ゲンズブール、マリオン・コティヤールらフランスを代表する人気俳優の共演も話題となっている。「わたしにとっては夢のようなひとときでした」と振り返るデプレシャン監督は、マリオンについて「彼女が演じるカルロッタという役について考えてください。彼女は一度消えて、また戻ってくるという神話的なところがある登場人物です。マリオン自身も、自ら神話を作ることができる力の持ち主です。彼女は神話的な存在になれるんですが、同時にただの少女のようにも、子犬のようにもなれる女優なんです」と説明する。
さらに続けてシャルロットについて「彼女が演じたシルビアは、女性として傍観者ですが、同時に灰の中の熾火(おきび)のようでもあります。彼女にはもっと燃え上がってほしい、灰を落としてもっと生きてほしいと言いたくなるような存在です。シャルロット自身はラース・フォン・トリアーの映画で生命力に満ちた役を演じたこともありましたが、それと同時に彼女の中には慎みがあるんです」とそれぞれの女優について評した。
本作ではロックからストリングスまで、幅広いジャンルの音楽が使用されていることから、選曲のやり方について質問されたデプレシャン監督。「音楽を選ぶのは編集をしているときです。僕が好きなのは音楽と音楽をぶつけさせること。例えばヒップホップとクラシックをぶつけてみたり、ベートーベンとジャズをぶつけたり、といった具合です。僕にとって崇高な存在はマーティン・スコセッシなんです」と笑顔を見せた。
そんなティーチインイベントもいよいよタイムアップ。最後のコメントを求められたデプレシャン監督は、「わたしが初めて日本に来たのは、2本目の監督作である『魂を救え!』の時でした。それ以来、日本に来ることは、監督人生において重要なこととなっています。もしあのとき以来、日本の方との対話を続けることができなかったら、今のような作品は作れていなかったでしょう。だからここに来られて本当に感動しているんです」と日本の観客にメッセージを送った。
デプレシャン監督、(Q&Aセッション前に行われた)舞台挨拶でのメッセージ:
アルノー・デプレシャン監督:まず、東京国際映画祭に対して感謝をしたいと思います。ここに立てることにとても感動しています。『イスマエルの亡霊たち』を要約をしてご紹介することは容易ではございません。なぜならばこの映画は、10の異なるストーリーが語られていて、それが1つのフィクションの流れを作っているからです。それは簡単な物語、簡単な感情、それから悲しみ、不可能な喪に服す行為…。そうして、様々なチャンスが欲しい、もう一度やり直しがしたい、と思う気持ちなんです。そして、そこここにジョークが散りばめられています。素晴らしい俳優にも恵まれました。その俳優たちの演技もぜひお楽しみいただきたいと思います。
第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。