原恵一監督が手がけた長編アニメ「映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦」が10月26日、第30回東京国際映画祭の特集企画「映画監督 原恵一の世界」で上映された。原監督は、劇作家で脚本家の中島かずき、アニメ特撮研究家の氷川竜介氏とともに、東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズでのトークショーに臨んだ。
2002年に公開された本作は、人気テレビアニメ「クレヨンしんちゃん」の劇場版第10弾で、戦国時代にタイムスリップしてしまった野原一家の活躍を描いている。原監督は、シリーズ第5弾「映画 クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡」から本作まで、6作連続で監督を務めた。第9弾「映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲」と本作は、幅広い年齢層の心を捉え、“大人も泣けるアニメーション”として愛されているが、その成功の裏には原監督の信念があった。「ファミリー向けのアニメに出資する人たちというのは、やはり子どもが安心して見られるものを望んでいる。冒険を望んでいないんです。だけど、僕らが子どもの頃に見た子ども向け作品は、ものすごく残酷だったんです。そういうものが、いつの間にか自主規制によって表現が軟弱になっていったということに憤りがあって。そこに挑戦したかった」。
さらに氷川氏が、原監督が演出として参加したシリーズ第3作「映画 クレヨンしんちゃん 雲黒斎の野望」を例にあげ、「『戦国大合戦』は、『雲黒斎の野望』でやりたかったけどやれなかったことを、全部思い切ってやっている気がする」と指摘すると、原監督は「その通りです。『雲黒斎の野望』の時に時代劇の資料を読んだら面白くなって、のめり込んだんです」と告白。そのうえで「『オトナ帝国』が興業的によかったので、『戦国大合戦』はあまり口出しされずにできた。じゃあ何をやろうかと思ったら、『しんちゃん』映画で一番ハードルが高いと思っていた時代劇。そして恋愛。そして、主要な人物が死ぬ。その3つを思いついた」と説明した。
また中島は、原監督が「映画 クレヨンしんちゃん」を“卒業”した後の、製作現場の状況についても触れ「僕は(脚本を手がけた)『逆襲のロボとーちゃん』の前に、プロデューサーとしても参加していたから、大変だったんですよ。『オトナ帝国』『戦国大合戦』という突出した傑作が出たじゃないですか。その後に、残された凡人たちで『どうする!?』という話になるわけです。しかも、どこかで『しんちゃんは感動しなけきゃいけない』みたいな、“大人帝国症候群”があった」と当時の苦悩を明かした。原監督は、「それは僕も一緒ですよ。初代の監督は本郷みつるさん。5作目から僕が監督したんですけど、同じことをやっても面白くないと思って違う方向にいった。でも踏襲した方が楽なんですよ。でもそれじゃあだめだと思って、自分なりの挑戦を毎作やっていたんです」と話し、「映画 クレヨンしんちゃん」シリーズは“製作陣の挑戦の歴史”でもあることを明かした。
第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。