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2017.11.12 [インタビュー]
『泉の少女ナーメ』は本編冒頭に引用される聖書の一節がすべてを物語っている
泉の少女ナーメ
©2017 TIFF
eiga.com

東京国際映画祭公式インタビュー 2017年11月1日
コンペティション部門『泉の少女ナーメ
ザザ・ハルヴァシ(監督・脚本)、マリスカ・ディアサミゼ(女優)、スルハン・トゥルマニゼ(プロデューサー)

異なる文化と宗教を持った人々を見つめながら、“神話”を思い描いた

古来から伝わる癒しの泉の番人をしている一家。男兄弟は独立し、それぞれ違う信仰をもちながらも仲良くしているが、泉の効用を信じていない。年老いた父は末娘のナーメに番人を継がせようとするが、ある日、泉が涸れてきて…。霧深い山々、人里離れた湖、闇夜を行く松明など幽玄な映像が展開されるが、これらは黒海沿岸に伝わる神話をもとにして、監督自身が見た夢の要素を取り入れた結果なのだという。冒頭に引用される聖書の一節「神の霊は水面を歩いていく」がいみじくもすべてを物語っているようだ。

──コルヘティに伝わる神話にインスパイアされ、アジャラでロケされた作品ですね。黒海沿岸のこの一帯はギリシャ神話にも登場し、のちにキリスト教が根付いたあと、オスマントルコ帝国が侵攻して、現在はキリスト教徒とイスラム教徒が共存しているという土地柄です。

ザザ・ハルバシ監督(以下、ハルバシ監督):南ジョージアのアジャラ地方は、まさにそのような多層的な文化が集積した土地です。私の出身地方なのですが、ここでは多様な文化と宗派の人々が共存しています。同じ家庭に生まれながら、兄弟で違う文化的素養を身につけ違う宗教を信じることが普通にあり、互いの信仰を排斥することなく調和しながら生きています。映画ではそうした特色を見つめながら、それぞれの宗教やギリシャ神話の起源にあるような神話を思い描いてみました。あのコルキス王国(ギリシャ神話に登場。現コルへティ)よりも古くにあったであろう神話を。
泉の少女ナーメ

──火や水、伝承歌など、文明の始まりにあったような素材で、主だったディテールは構成されています。

ハルバシ監督:それらは私の夢に登場してきたものです。黒澤明監督の『夢』を観て以来、私はいつか夢の要素を映像化したいと思っていました。私の作品は、典型的な劇的構造に基づいたものではありません。アリストテレスの「詩学」にあるような、導入があり展開があり紛争があり、解決があるというような、直線的な形式をもっておりません。自分が見た夢を素材にして伝えたかったのです。

──物語は代々家族が守ってきた泉をめぐって展開されます。兄弟のかわりに父親に尽くしていたナーメがやがて恋に落ち、泉が徐々に涸れていく…。

ハルバシ監督:古くから伝わる神話は、ある女性が魔力を持ちながらも、自分ではその能力を疎ましく思っているというものです。彼女は普通の人間になって恋をして暮らしたかった。そしてある日、本当に恋をしたらその魔力を失ってしまいます。ずっと口承で伝わってきた話で、私も祖母から聞きました。祖母は106歳で往生したのですが、たいへん印象に残っていてこれが本作のベースになっています。

まわりの風景に溶け込めば、映画の世界に入ることは容易だった

──でもナーメには現代性が付与されていますよね?

ハルバシ監督:ふだんは敬虔な信者のようにヴェールを巻いてますが、外出して父親が見ていないことを確認すると、ヴェールを解いておしゃれに肩にかけ直します。無表情な役のぶん、小さな動きでコントラストを付けて感情を表現しました。

──マリスカさんは演じてみていかがでしたか? 日常生活からかけ離れた世界で演じにくさはなかったでしょうか?

マリスカ・ディアサミゼ:私は首都のトビリシに住んでいて、そこから別世界に連れて行かれました。山に垂れ込める霧を見て、ほんとうに絵画のようだと感銘を受けました。風景に溶け込みさえすれば映画の世界に入ることは簡単でした。見たこともない山奥に連れて行かれて、天と地ほどの変化を経験したことで、ふだんの性格からは離れたキャラクターにもたやすく入り込めました。
泉の少女ナーメ

ハルバシ監督:いつものマリスカは陽気で、踊りや歌も上手な愉快な人間です。しかしアジャラでの撮影中は宿の部屋に誰も入れず、人との会話を絶って、ずっとひとりきりの世界を作っていました。その部屋に入ることが許されたのは私だけでした。部屋には本があり絵が飾ってあり、まさしく自分の世界を生きているふうでした。彼女は撮影中スタッフから指示があってもほとんど会話せず、ただやるべきことをこなしていました。「ああ、役に憑りつかれているんだ」とわかってからは、あまり指示をすることもなくなりました。そんな彼女だからこそ“神の霊”のようになれたのですよ(笑)。

――プロデューサーさんにお伺いします。屋外ロケが多く、天気待ちなどで時間のかかる撮影だったと思いますが、進行や予算の管理は大変ではなかったですか?

スルハン・トゥルマニゼ:撮影にかかった時間よりも、その後の編集作業のほうに時間がかかりました。時折、クルーがノーギャラで作業してくれたこともありました。危機的な状況のなかでも、みんな心を込めて映画に貢献してくれました。そうした意味では運にめぐまれた作品です。
泉の少女ナーメ

(取材・構成 赤塚成人 四月社)
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