東京国際映画祭公式インタビュー 2017年10月29日
ワールドフォーカス部門『超級大国民[デジタル・リマスター版]』
ワン・レン(監督)
ホウ・シャオシェンと並び“台湾ニューシネマ”の旗手のひとりに数えられる匠、ワン・レンの1995年作品がデジタルリマスターされた。戒厳令が敷かれ、台湾政府による「白色テロ」が横行した1950年代、政治的な読書会の代表者の名をもらして生命を長らえた男が、30年後に代表者の墓を探す謝罪と悔悟の旅に出る――。静謐な語り口で歴史に翻弄された男の心を浮かび上がらせる。95年の東京国際映画祭に出品され高い評価を受けた。
――95年に東京国際映画祭で上映された時が忘れられません。まず、デジタルリマスター化された思いを聞かせてください。
ワン・レン監督(以下、ワン監督):第8回東京国際映画祭で上映され、その後に台湾で公開されました。それから22年経ちますが、DVDは出していませんでした。学校の教材として使われているものもすべてVHSとかVCDになります。アメリカの大学から教材用にコピーを欲しいといわれて探したところ、カビが生えかかっていました。これはいけないと思い、昨年末にデジタルリマスターしました。
――作り手としてデジタルリマスター版の映像を目にしたときに、製作時が蘇りましたか。
ワン監督:カメラマンと一緒にリマスター作業に参加したのですが、映像がきれいになりすぎることが問題でした。何度もやりなおして、やっと当時の映像と同じテイストのものができ上がりました。
――どんな感想をお持ちになりましたか。
ワン監督:台湾は1949~87年にかけて戒厳令にあり、この作品は95年の製作です。戒厳令が解かれてから間もないにも関わらず、ここまで深く描いていたことに感慨を抱きました。自宅を抵当にいれて製作しましたが、若かったんですね、今はできるかどうか。
――現在は台湾の体制も変わりました。
ワン監督:戒厳令が解かれて30年になります。政党も変わって今は民進党が政権を取っています。白色テロがテーマになったこの作品は、政治自体が変わりつつあるなかで、台湾やアメリカなどの大学から上映やQ&Aのイベント依頼が増えています。
――「忘れてはいけない歴史」をここまで静謐に再現されていて感動いたしました。
ワン監督:私は戦後すぐの1950年生まれです。社会や政治に対する興味を持って育ったので、最初の作品はアメリカに追従する台湾を批判する内容でした。私は「超級」を冠した作品を3本、撮っていますが、最初から三部作にする考えはありませんでした。台湾の社会を見つめていくうちに自然に3本になったのです。市井の人を描く内容で、「超級」ということば自体が皮肉なのです。
社会や政治に興味はあっても、自分はなにより“映画監督”
――『超級大国民』は2作目になりますね。
ワン監督:戒厳令下の反乱処罰法を題材にしました。その第二条一項に政治に関する読書会を開き、首謀者が政権転覆などを企んだ場合は死刑になると書かれていました。首謀者が銃殺されたときに、残された家族が大金を払わないと遺体を引き取ることができません。遺体は、学校や病院で解剖に使われ、映画に出てくるような無縁仏として合葬されます。94年に台北で、数百人が合葬されている墓を見て、映画化を決心しました。
――監督は社会に厳しい目を向けていますが、体制が変わった現在も変わりませんか。
ワン監督:同じような題材を撮りたいと思わないので、白色テロに関しては十分だと思っています。ただ歴史と、台湾社会に興味があるので温めている題材はあります。政治に関してはここ20年いろいろなことがありました。とりわけ、 “両岸問題”と呼ばれる中国大陸との関係が近年の最大のテーマです。
――新作の題材は“両岸問題”ですか。
ワン監督:いや、私が数年、温めているのは1947年に起きた二・二八事件です。韓国の光州事件と同じような大量虐殺事件で、台湾における近代史の非常に重大な事件であると考えています。実は89年にホウ・シャオシェン監督が『悲情城市』でこの題材に挑んでいますが、時間も経ち、新しい技術も駆使できるので、もう一度挑みたいのです。ホウ監督が製作した当時はまだ制限が少なからずあり、現在は比較的緩いと思うので題材を深く追及できます。
――現在の台湾映画界に対するコメントを、最後にお聞かせください。
ワン監督:現在の台湾映画界は、娯楽作志向との指摘もあります。確かに今は商業映画が非常に多いと思います。何かが流行り、それが廃れればまた次の何かが流行る。そのような流行り廃りの波がありますが、中国大陸の映画界に比べたら、台湾映画界はまだマシなのではないかと個人的には思っています(笑)。ただ、社会や政治に興味があるとはいっても、自分はなにより“映画監督”です。映画という表現で、今後も思いを伝えたいと考えています。
(取材/構成 稲田隆紀 日本映画ペンクラブ)