第30回東京国際映画祭「ワールド・フォーカス部門」に出品された映画『超級大国民』(デジタル・リマスター版)の上映が10月29日に東京・TOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、ワン・レン監督、プロデューサーのファン・ジェンヨウが出席した。
ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤンらとともに台湾ニューシネマをけん引したワン・レンの代表作をデジタル復元でよみがえらせた本作。1995年に東京国際映画祭コンペティション部門に出品されて以来、今回が22年ぶりの上映となった。満員の観客の前に立ったワン監督は「またこうやって22年後に東京で上映していただき、とてもうれしく思います。前回、22年前に上映されて以来、VCDとVHS版での発売はあったんですが、DVD版は出回っていなかった。しかも映像がぼやけている、画質の良くない海賊版が出回っていて。時には大学の教材ですら海賊版を使っているところもあったくらいです。ですから昨年、デジタルリマスター版を作ることができて、東京の皆さんにも見ていただくことができて。本当に幸せです」と感激の表情。
観客からも「22年前にあらすじを読んだときからずっと見たいと思っていたから、今回見られてよかった」「この映画の話は前から聞いていて、一度見たいと思っていたのに、DVDも発売されていないからなかなか観られないと聞いていたので、今回見られて本当によかった」といった喜びの声があがっていた。
本作の舞台となったのは1950年代の台湾。戒厳令と白色テロの時代。学生のコー・ゲーシン(許毅生)は政治的な読書会に参加したことを理由に逮捕され、投獄されるが、そこで思わず友人タン・チンイッ(陳政一)の名前を明かしてしまう。その結果タンは死刑に処せられコーは釈放されてしまう。30年後、施設で暮らすコーはタンの墓を探す謝罪の旅に出るという物語。
蒋介石政権下の1949年に布告された戒厳令は、市民の政治活動を厳しく取り締まり、「白色テロ」の名の下に市民の逮捕・投獄を行ってきた。本作はこの「戒厳令」を重要なモチーフとして描き出している。「この作品が作られたのは1995年。1987年に戒厳令が解かれてからまだ間もない時代でした。観客からは、ようやく戒厳令について話すことができる時代になったんだなと感慨深い声があがりましたね」と述懐するワン監督は、「テレビなどでは討論会番組などもあって、台湾の人は政治を話すことは好きなんですが、なぜか政治をテーマにした映画というのは非常に少ないんです。白色テロを描いた映画というのは、おそらく1本か2本くらいしかないんじゃないでしょうか。この作品がデジタルリマスター版になって再度上映されることになりましたが、22年前に見てくださった方はもちろんのこと、若い人たちもこんなことがあったのかと感動してくれましたね」と付け加えた。
ワン監督には、「超級公民」「超級市民」という作品もあり、本作と合わせて「超級三部作」と呼ばれている。「市民とは、台北市のスラムに住む普通の小市民を主人公にしたもので、超級とつけたのは皮肉です。いろいろ聞かれたのが、なぜ『超級大国民』だけ“大”がついているんですか? 長い映画なんですか? ということでした。実は何度もこの映画の脚本を書き直しているうちに、資金が足りなくなってしまい、自宅を抵当に入れて制作費を捻出したことがあったんです。下手したら破産するような状況だったんですが、そんな時に占い師に観てもらったら、タイトルに“大”を入れるといいと言われたんで、それでこうなったわけです」と明かし、会場を笑いに包んだ。
第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催中