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2017.10.28 [イベントレポート]
『アケラット-ロヒンギャの祈り』監督、主演女優と二人三脚で描いたロヒンギャ移民の現実
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   第30回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品されたマレーシア映画『アケラット ロヒンギャの祈り』が10月28日、東京・EXシアター六本木でワールドプレミア上映され、来日したエドモンド・ヨウ監督、主演のダフネ・ローがQ&Aに臨んだ。

 第27回同映画祭では「破裂するドリアンの河の記憶」をお披露目したヨウ監督の新作は、現代マレーシアの転移(ディスプレイスメント)と倫理観についての野心作。台湾行きを願うフイリン(ロー)は貯金を失った結果、奇妙な仕事に手を出す。それはロヒンギャ移民に対する残虐行為に関わるビジネス。おぞましい闇の仕事に手を染める彼女にとって、フイリンを昔の知り合いだと信じている若い病院スタッフのウェイ(ハワード・ホン・カーホウ)だけが、残された“ひと筋の光”だった。

 ヨウ監督が本作のインスピレーションを受けたのは、マレーシアとタイの国境付近のジャングルにあった人身売買の拠点から、ロヒンギャ移民の白骨死体が139体も見つかったという2015年の事件だ。「誰がこんなことをするのか探ってみたいと思ったんです。同時に、マレーシアを訪れたいという人はたくさんいます。その一方で、マレーシアから出たいと考えている人も大勢いる。両者はどこか似ている部分があるのかもしれないと考えて、今回のテーマにとりあげました」と製作に至った背景を明かすと、ローは「脚本を読んだ時は、さすがエドモンド・ヨウだなと思いました。彼は世界を“思いやれる目”を持っている」と大きな信頼を寄せていた。

 多文化多言語が同居したマレーシアとタイの国境付近の街を、物語の舞台に設定したヨウ監督。「マレーシアは、元々多言語が使用されている国。例えば、両親と私は広東語を話し、妹とは英語で会話をしたりと、多言語、多文化、多人種の国なんです」と前置きすると「(物語の舞台は)マレー語なんだけどアクセントが違ったり、北京語にタイ語が混ざっていたりと、全く違う国に来たようでした」と述懐。そして「劇中で描かれる人形劇は、最後のマスターがつくったもの。長い間忘れ去られてたものが、あの場所でタイムループしていたようなイメージでした。この忘れられたものを描きたいという思いもありました」と話していた。

 ヨウ監督の映画製作は、脚本では細かなセリフを指定せず、現場でキャスト陣とコラボレーションしながら作品を構築していくスタイル。フイリンが木を斬りつけるという場面は「ダフネ、役として今何を感じている? (ロヒンギャ移民を)傷つけているけど、やりたいことではないよね。でも、お金は欲しいんだよね…」とローに“フイリンの心情”を問い続けて生みだしたものだ。「撮影前の準備期間に、監督とどういうふうに演じるかを話し合いました」と振り返ったローは「監督は内に込めた演技が好きなんです」と分析。「私自身はセリフをきちんと言う芝居も好きなんですが、監督は『演技で表せるものは、言葉にするな』という考え。(本作では)相当な量のセリフを減らしました」とヨウ監督流の演出を話していた。

 なお、ヨウ監督は「国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA #4 ネクスト!東南アジア」部門に「ヤスミンさん」も出品している。第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。
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