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2017.10.28 [イベントレポート]
人類に対する強い危機感…ディストピア描く『グレイン』トルコの巨匠監督が語る
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   トルコを代表する映画監督セミフ・カプランオールの最新作『グレイン』が10月28日、第30回東京国際映画祭のコンペティション部門でアジアプレミア上映された。カプランオール監督は、主演のジャン=マルク・バール、プロデューサーのベッティーナ・ブロケンパー氏とともに東京・EXシアター六本木でのQ&Aに出席した。

 「ユスフ3部作」など自然美に満ちた作品を紡いできたカプランオール監督だが、約7年ぶりの新作は一転し、混沌としたディストピアが舞台の近未来SFを描く。移民の侵入を防ぐ磁気壁を備えた都市に暮らす種子遺伝学者のエロールが、農地を襲う原因不明の遺伝子不全を解決すべく、重要な論文を残して失踪した同僚を探し始める。

 約5年の歳月を費やした今作成立の背景には、人類に対する危機感があるというカプランオール監督。「5年の間、それまで製作していた映画のおかげで、随分とさまざまな国を講演のため回ることができました。アメリカやオーストラリア、アフリカ諸国、世界で起こっているさまざまな現象を見ることができた」と振り返り、「人間が過剰な消費のために、社会、生物に害を及ぼしている。我々には何ができるかと考え、そこからこの映画は始まりました」と明かす。続けて「私たちは世界のあらゆる種族をなくしてしまっている」としたうえで、「自分たち自身をも絶滅させてしまう。それは自分たちの身体だけでなく、精神面にも言えること。そうした運命は、人類、ひいては私自身にも責任があると考え、こうした取り組みをはじめました」と、穏やかだが強い危機感がはらんだ語り口で訴えた。

 さらにマルク・バールは、「カプランオール監督から脚本を頂いたらすぐに読み、すぐにイエスと答える。簡単なことでした」とニヤリと笑い、「私自身フランス人とアメリカ人のハーフで、今はパリが拠点ですが、ヨーロッパ作品への参加は光栄なこと。国という枠から離れた国際的な作品になるからこそ、ハリウッド作品と真の競合になれると思う。そういうことをやりたいから、私は俳優になったんです」と矜持をのぞかせる。劇中、神聖な場所では靴を脱ぐという慣習が映し出されるが、「我々の生きる世界は、神聖さを失うところまで来た。靴を脱ぐことを描くのは、過去に立ち戻ろうとしているんです。私たちが世界的に直面している、気候変動など恐ろしいことに対する“解”があるならば、神聖さに立ち戻らなければならないということ。儀式的な、言葉ではないが心に息づいているものを、監督は作品のなかで描いている」と真摯に説明した。

 また撮影は米デトロイト、ドイツ、トルコで行われ、CGをほとんど使用せず近未来世界を創出。全編通じてモノクロの映像美が支配することについて、カプランオール監督は「気候や地理上の違い、建築物の違いがある3箇所をシームレスに結びつけるには、白黒しかない。空間を見て回る際に、これを発見しました。また、今作はネガティブな面をとらえています。人生にはコントラストがあると説明するためにも、白黒を選択したんです」と理由を挙げていた。

 第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。
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