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2017.10.28 [イベントレポート]
「縮図にすることでより広い社会で行われる、国レベルで行われる様々なことが描きやすくなります」10/26(木):Q&A『グッドランド』

グッドランド

© 2017 TIFF
オープニングイベント レッドカーペットに登壇したゴヴィンダ・ヴァン・メーレ監督

 
10/26(木)、コンペティション『グッドランド』の上映後、ゴヴィンダ・ヴァン・メーレ監督をお迎えし、Q&A が行われました。⇒作品詳細 次回上映11/1・20:35~
 
ゴヴィンダ・ヴァン・メーレ監督:今日はお越しいただきまして誠にありがとうございます。実は私、日本に来るのが二回目でして、最初に来たのが10年ほど前でした。その時はプライベートでバックパック旅行だったのですが、この度はこの作品を携えてやって来られて非常に嬉しく、また光栄に思います。
おそらく今回、東京国際映画祭のコンペティション部門では初めてのルクセンブルク映画になるのではないかと思います。
 
矢田部PD:そうですね。
まず私から一問目お伺いしたいのですけども、『グッドランド』というのは実際のルクセンブルクの南部地方の名前だそうです。農業地帯として肥沃な土地なのでグッドなランドという名前がついているという様に伺いました。この地名をもとに作品を作られいます。ドキュメンタリー長編を撮られていますが、フィクションはこれが一本目ということです。グッドランドという地名から一本目の構想を練られたきっかけを教えていただけますか。

 
ゴヴィンダ・ヴァン・メーレ監督:はい、この村は私自身が育った村と非常に似通った部分がありまして、地理的にも非常に近いのですけども、もちろん殺人事件などはなく、これはフィクションなのですけども、実際にロケ地も私が育った地元で撮っていたりもして、自分の実家が見えるシーンもあるのです。
今回フィクションで長編に初挑戦ということでやはり自分の育ちというか、自分の地元をひとつテーマというかモチーフにしたものを、と思っていました。
ルクセンブルクの話になりますが、今でこそ金融や銀行業で知られていますが、歴史的には高地帯だったわけですね。農業を営んできた国でして、先ほどもおっしゃられていたようにこの映画のタイトルは『グッドランド』です、だから「良い」ということですね。非常に肥沃な土壌で農耕地帯なのでしたが、そのうち製鉄や炭鉱が発展しました。でも製鉄等をしていく中で肥料などを抽出できるようになりました。それをさらに北の地方に撒いていって、またその地方も肥沃な土地になったという歴史があるのですが、もともとルクセンブルクというのはやはり農耕地帯で農業をやってきた国ですから、アイデンティティ的にも農業と非常に濃く紐づいているわけです。
 
Q:この映画を見て、子供が大人の影響でおかしな方向に暴力性が生まれてしまうというところがミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』を連想しました。
オーケストラの服装の意味を教えてください。

 
ゴヴィンダ・ヴァン・メーレ監督:あのユニフォームはルクセンブルクのブラスバンドのもので、なぜかあのユニフォームを着ます。青に金色のラインのユニフォームですよね、なぜだか僕もわかりません。ミヒャエル・ハネケ監督の作品と伺いましたが、面白いことにルクセンブルクの映画の歴史は非常に浅いです。どこかの国に似ているとすればオーストリアの監督や映画に似通っている部分が多いと思います。
 
矢田部PD:ありがとうございます。今ミヒャエル・ハネケ監督の名前もでましたが、終盤はデヴィッド・リンチ監督的な味わいもありますね。
 
ゴヴィンダ・ヴァン・メーレ監督:デヴィッド・リンチ監督的だとおっしゃってくださいましたが、確かにその例えがわかりやすいかもしれません。スタイルが際立っている監督ですね。安易ではありますが例えば助成金に申し込むときは「デヴィッド・リンチ監督のような」という言葉を使って売り込みます。その方がお金が入ってくるので(笑)
撮影に入るときはリンチ監督という言葉は口にしませんでした。カメラマンやスタッフにリンチ監督っぽさを意識してほしいわけではなかったので、あえて口にしませんでした。出来上がった作品は客観的にみて1つの映画が全く別の映画に様変わりして、1人の男が全く違う男に様変わりした様子を描いています。気付く人もいれば気が付かない人もいますが、わかりやすいところでいうと最初は長髪でひげを生やしたりしていたのが,きれいにひげもそったさっぱりした男性になっていくわけですが、実はそれ以外にも鼻をいじっていたりしています。歯も特殊メイクで違う歯でつけたり、目も変えたりしています。少しずつメイクを剥がしていき最後はさっぱりした顔になっていきます。
 
矢田部PD:この映画は何回か見直すと、あ、ここもこうなっていたんだ!という発見が何度もありますのでぜひ2回目の上映(11/1・20:35~)もご覧になっていただければと思います。
 
Q:イエンス・ファウザーを演じているのは芸歴20年くらいのフレデリック・ラウというドイツの俳優だと思うのですが、監督は彼をオーディションで選んだのですか、それとも今までの出演作品を見て出演を依頼したのですか?

 
ゴヴィンダ・ヴァン・メーレ監督:設定からお話しますと、ドイツからルクセンブルクへとある男がやって来たという設定で、例えば企画をしていくなかで、ベルギーからやって来た男、フランスからやって来た男という設定もあり得ますよね、という話もあったのですが、私的にはドイツから来た男でなければならないというハッキリとした考えがありました。
何故かというと、ドイツ語とルクセンブルク語は字幕でみるとイマイチ分からないのですが非常に似通っていて、この言語の間の齟齬がひとつのキーポイントになっています。
ですので、これはドイツ人でなければならないと思いドイツ人の役者を配役するならフレデリック・ラウさんしかいないだろうと最初から思っていました。彼は非常に特徴がある面白い顔の人なんですよね。テレビ俳優はたくさんいますが、なかなか特徴のある顔はないので是非彼を配役したいと思いました。また、過去の作品で『ヴィクトリア』(2015)がありました。この映画での彼の演技を見てびっくりして、一番最初に声をかけたのが彼でした。その前に彼の相手役をするヴィッキー・クリープスさんという女優さんを先にキャスティングしていて彼に声をかけたら即答でYesと言ってくれたので、彼女に会ってもらってとんとん拍子に進んでいって僕がやったことといえば彼とのコーヒーを飲むくらいでしたが速攻決まりました。
 
矢田部PD:ありがとうございます。ほんとに彼は素晴らしいですね。変遷ぶりもとても印象的でした。
『ヴィクトリア』(2015)は東京国際映画祭でも上映した作品です。
 
Q:なぜ主人公が村というコミュニティに受け入れられる描写をするうえで吹奏楽が選ばれたのか、ルクセンブルクにおける、吹奏楽の意味を教えていただけるとありがたいです。

 
ゴヴィンダ・ヴァン・メーレ監督:まず、村という設定に関して言うと、ルクセンブルクという国をより広い社会のあれこれを描くよりは、誤解を恐れずに言うと、都合がいいんです。
縮図にしてしまうという手法があります。縮図にすることでより広い社会で行われる、国レベルで行われる様々なことが描きやすいんです。例えば、登場人物を10名程度に凝縮する、これはブラスバンドのことですが、リーダー的な人物がブラスバンドを指揮するということがメタファーなんです。そういう意味でこの映画はメタファーだらけなんですね。また村というのも人が一つの集落になる最小単位ということもあって、村の話にしようと思ったんです。
ブラスバンドは、非常に重要な位置にあります。ルクセンブルクの村には必ず吹奏楽団があるんです。僕の話をすると4歳の時にその村に移り住んだのですが、やはり仲間に入りたかったんです。うちは農業を営む一家ではなかったので、村に入りこむ一つのやり方はブラスバンドに入ることだったんです。
ですので、僕はトランペットを吹きたいと親におねだりしたのですが、ダメと言われました。ほっぺたに悪いからとかなんとか適当な理由をつけられてね(笑)。
やっぱり村の一部になりたいあまり、例えば農業を営みたいとまで僕が言い出したので、僕の将来に対する心配というのも少しあったんではないかと。そしてまた、非常に宗教も強いコミュニティでしたので、特に宗教を持った家族ではなかったのでそういった面も含め、今振り返って考えると、親は心配したんだと思います。
ブラスバンドだけではなく消防団なども必ずあるわけですけれども、それも仲間に入っていく一つの道だったりするのです。ですので、それを映画を描くためにブラスバンドを意図的に描きました。

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