第135回直木賞候補作になった貫井徳郎氏の小説を映画化した「愚行録」が10月27日、第30回東京国際映画祭Japan Now部門の特集企画「銀幕のミューズたち」で上映され、満島ひかり、メガホンをとった石川慶監督がTOHOシネマズ六本木ヒルズでのティーチインに臨んだ。
本作は、未解決のエリートサラリーマン一家殺害事件を追う雑誌記者・田中(妻夫木聡)が、関係者たちの本性を目の当たりにする姿を通じ、羨望、嫉妬、駆け引きなど、誰もが日常的に積み重ねている“愚行”を映し出す。同部門のプログラミング・アドバイザー・安藤紘平氏が「“空っぽの質感”が見事に表現されていた」という田中の妹・光子に扮した満島は「(芝居は)綱渡りでした。大失敗するのを覚悟していました」と撮影を振り返る。「“得体の知れないもの”のように映ろうとしていましたが、やりきれたという感じはなくて。もう少し石川監督を信じられたんじゃないかなと思う」と思いの丈を述べていた。
石川監督は、タッグを組んだポーランド人カメラマンのピオトル・ニエミイスキ氏が「満島さんをどのように撮ってくれるのか」を楽しみにしていたという。切りとられた映像に「満島さんの新しい表情が見えた」と話すと、その言葉に同調した満島は「私も新しい自分の映画の始まりという感じがしました」と告白。「ピオトルは『美しいか、美しくないか』を撮影の判断基準にしていました。石川監督の映画の構築の仕方も他の監督の方々と異なっていて、エチュードがすごく多いんです。脚本にないよう場面もいっぱいありましたね」と語っていた。
「可哀相」「愛おしい」という感情移入を排し、脚本家の向井康介に協力してもらって、セリフの言い回しや流れにまでこだわり抜いた満島。また光子という役を完成させるためには、妻夫木の存在も欠かせなかったようだ。「プライベートでも兄妹のように接してもらっていて、本当にお兄ちゃんと思っている感じなんです。相手のことを新しく知ろうとしたり、映画のために愛するという時間が必要なかったのが、すごくラッキーだった」と妻夫木に厚い信頼を寄せていた。
「妻夫木と同じような心にグッとくる共演者の方はいましたか?」という質問が観客から飛び出すと、満島は「撮影中は皆の好きなところばかりを探しているから、なるべくご飯とかは行かないようにしているんです。日常の姿にハッと驚いてしまうこともありそうだから(笑)」と前置きしながらも「最近『うわー!』という衝動を感じたのは、共演者じゃないですけどオザケン(小沢健二)さん!」と回答した。さらに「俳優を始めてから、最初にすごいと感じたのは(安藤)サクラ。『愛のむきだし』のワークショップのような場に参加した時、彼女の圧倒的な演技力に驚きましたね。一緒に共演出来たことは、今でも宝物になっています」と打ち明けていた。
第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。