第30回東京国際映画祭のマスタークラス部門のセミナー「ブリランテ・メンドーサ監督の演出論」が10月26日夜、東京・六本木アカデミーヒルズで行われた。メンドーサ監督は1960年生まれの57歳、フィリピン映画の「第3黄金期」をリードしてきた鬼才。「ローサは密告された」で参加した2016年のカンヌ国際映画祭では、常連女優ジャクリン・ホセにフィリピン初の女優賞をもたらした。
「マスタークラス」は巨匠たちが若い映画作家らに向けて開催する部門。冒頭には、麻薬売買で摘発されたスラム街の家族と警官の不正を描いた「ローサは密告された」のメイキングと演出術を収めた約20分の特別映像の上映も。メンドーサ監督作品は、事実を基にストーリーを作り、地域の問題など社会性を持たせることが特徴。俳優には台本を一切渡さず、役がらそのものになることを要求し、カメラは常に手持ちというのがスタイルだ。
長年、広告業界でディレクターなどを務め、05年、45歳の時に「マニラ・デイドリーム」(ロカルノ国際映画祭のビデオ部門で金豹賞)でデビュー。「当時から今のスタイルで撮り、12年間で13本目になります。ストーリーは概念から作り上げます。『ローサ』はリサーチを重ね、実際の製作には4、5年かかっています。いつも投資家がいるわけでもなく、予算がたくさんあるわけでもありませんが、努力して、作っています」と話した。
若い監督に向けては、「犯しがちなミスとして、何もかも入れ込みすぎるということがあります。あまりたくさんのものを詰め込むと、本物らしさを失う。映画はシンプルに作るべきです」とアドバイス。大事なものは「まずトピック、アイデア。提示する問題はなにかを考えること。売春に関してたくさんのストーリーが存在するが、例えば、不正ということを伝えたいのならば、そこにどんな背景があって、何があったのか。そのメッセージをクリアに伝えることに集中すべき」と解説した。
満席の会場からは質問が相次ぎ、丁寧に答えた。演出については「台本はすべてあります。でも、俳優には見せないんです。セリフを覚えてしまうと、本物ではなくなってしまうから。驚きが欲しいのです」と持論を展開。若い女優からは「どうしたら、監督の作品に出られますか?」との質問も飛んだが、「プロでもアマでも採用しますので、問題はないです。俳優の態度も大切です。私のテーマを分かっている人と才能を分かち合いたい。そういうことを共有している人が私たちのチームなんです」と話した。
昨今、勢いのあるフィリピン映画界については「ストーリーの強みがある。さまざまな島があって、それぞれに独自の文化があって、伝統を重んじている。そこには、自分たちのストーリーがある。フィルムメーカーにはとてもいい環境です。メインストリームにないものが存在しているから。技術的には洗練されていない部分もありますが、財政的なものは後からついてくる」と語った。
質問は最後まで途切れることはなく、セミナーは1時間20分近くに及んだ。