第30回東京国際映画祭の「Japan Now 銀幕のミューズたち」部門で、『0.5ミリ』が10月29日、TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映され、安藤桃子監督、主演の安藤サクラがQ&Aに登場した。
第30回のアニバーサリーイヤーを記念して、蒼井優、満島ひかり、宮崎あおいとともに映画祭のミューズに選ばれたサクラ。「0.5ミリ」は家なし、金なし、職なしの「おしかけヘルパー」のサワがさまざまな老人たちと出会うというストーリー。姉の桃子監督が自身の祖母の介護体験をヒントにした同名小説を映画化。2013年、数々の映画賞を受賞し、姉妹にとって代表作となった。
上映は第28回に続き、2回目。8割は埋まった劇場を見た サクラは「前より入っていて、うれしい」と大喜び。桃子監督は「祖母を8年間、在宅で介護しました。家族で看取るのは誰でも起こることだと思い、映画にしました。(主役は)妹であるサクラさんにやっていただきたいと思った」と語った。
サクラは「最初に小説だったじゃないですか。何を書こうと思った? 介護? ああいう女?」と聞くと、「人を看取るということかな。祖父の葬式も経験したけども、成長期におばあちゃんを看取った。私は高校から留学したので、家にいなかった。サクラは渦中のど真ん中にいたけど、私は客観的に見ていたので」と桃子監督。
“姉妹ならでは”のトークに花が開いた。サクラは「私はすごくおばあちゃんっ子だった。(容態が)危ない時もおばあちゃんと二人だった。姉は何ヶ月も離れていたわけだけど、『どっちがつらいのか?』とちょっとしたけんかになったこともある」と振り返った。
映画は老人介護、戦争と平和、生と死、生と性などさまざまなテーマを盛り込んだ196分の大作。桃子監督は「最初から3時間を超えると分かっていたけど、それを見せたかった。私は生まれた時から素の安藤サクラを見ているので、それを活かす。安藤サクラと仕事をするということは、そういうことだと思う。他の作品ではないサクラの顔が撮れている気がします」と語った。
観客から表情の見どころを聞かれると、桃子監督は「予告編にもあるんですが、茂じいさん(坂田利夫)がふすまを開けた時、キッチンで振り返って、『おはよう』と微笑む場面。あれは黄金期の女優しかできない顔です。あれが母性! 日本人の忘れられた魂が光っている」とアピール。サクラは「あそこ、恥ずかしい。照れくさい。そんな私を切り取ってくれて、ありがとう」と感謝した。
また、満島ひかりから注目の女優として名前を挙げられたことを聞かれると、サクラは「ひかりちゃんと共演したのは『愛のむきだし』。デビュー作に近い頃で、その後はしっかりと共演していない。心も体もドロドロ溶けていくようなものすごい現場で、同世代の女の子は私たちだけ。ひかりちゃんは、動物的な本能を持った人だなと思いました。女優さんとして、どうの、というより、あの作品、あの場所であったことで、特殊なエネルギーを出せたんだと思う」と話した。
今後については聞かれると、サクラは「女優さんとして、こうしたいということはないんです。今回の上映のため、『かぞくのくに』やメイキングを見ました。作品の中の自分を見ると、気持ちが悪くなる、嫌だなと思う。そう思えていることがよかった。前の自分からすれば、今の自分のことは想像できない。子どもを産んだことも。そういう風に過ごして生きていきたい」。過去作を見たことで、自身の成長を実感しているようだ。
一方、監督業に留まらず、10月7日には地元、高知市でミニシアター「ウィークエンド キネマM」をオープンさせた桃子監督。「事情も都合も関係なく、魂むきだしで生きていきたい。(映画館を運営すると決める前の)4カ月前は子育てに専念して、仕事はやめちゃおうかなとすら思った。でも、『いや、違う!』と思ったら、エンジンがかかり始めた。今は世紀末だと思う。震災があって、北朝鮮のミサイル、戦争の危機と世の中は飽和状態。子どもには、そんな世の中を生き抜いていける先導者になるための道を開いてあげないといけない。映画は魂をぶつけるものなんです。お母ちゃんの背中を見てろよ」と言葉に力を込めた。
第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。