「プールサイドマン」(2016)で高い評価を得た渡辺紘文監督の新作『地球はお祭り騒ぎ』が10月28日、第30回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門でワールドプレミア上映された。渡辺監督は音楽を手がけた渡辺雄司、出演した俳優の今村樂、撮影のバン・ウヒョンとともにTOHOシネマズ六本木ヒルズでのQ&Aに出席した。
「プールサイドマン」で第29回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門の作品賞に輝いた渡辺監督。「そして泥船はゆく」(13)、「七日」(15)と、製作した全ての作品が同映画祭に出品されており、3年連続4度目の参加となった。映画は、北関東郊外の町に住む2人のビートルズマニアが、ポール・マッカトニーの来日コンサートのため東京ドームへ向かう奇妙な旅を通じ、生きることのおかしさ、悲しさ、騒がしさを描く。
「白黒でできることを、突き詰めていかなければ」という信念を胸に留める渡辺監督の作品は、これまで全てがモノクロ映像で紡がれている。今作と前作を比較し「主人公が一言もしゃべらないことが共通している。一方で、前回はコントラストが強く暗いイメージでしたが、今回は空気のような、自然に流れている作品にしたいと思い、フワッと柔らかくなっています」と強弱を説明した。
さらに「前作で、自分たちの“映画のつくり方”が少しずつ見えていった」としたうえで、「今回は、『プールサイドマン』で得たことに加え、新しいことに挑戦した」と進化を語る。タイトルに込めた意味を「騒ぎを外から見ている人」と明かし、「それが今村くんが演じたキャラのイメージ。騒ぎの中に入っていくと、実は面白いことがあるのでは、ということでもあります。『プールサイドマン』は、主人公がお祭りに入っていくシーンで終わるんです。表裏一体で、前回が陰の映画だとすれば、今回は陽の映画です」と詳述した。
そして音楽を手がけたのは、渡辺監督の実の弟である雄司。淡々と流れる時間に寄り添った音楽の数々について問われると、黒澤明監督の言葉を引き合いに答えた。「黒澤監督が、『映画は10に近づけていく作業だ』と言っていた。映像が6であれば、音を4にするということ。その言葉を聞いてから、すごく意識して書くようになったんです。僕は、映画に寄り添うような音楽を書きたいと思っています。自分の表現としてつけたいと思わないし、映画の主人公らに勝ってはダメだとも思っています。前作は攻撃的な音楽を書きました。今回はまったく違うアプローチで撮っている映画。静かな男たちや、全体に合うような静かな音を心がけました」。
第30回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。