表向きは自動車修理工だが、裏では動物の安楽死を請け負う男。無責任な依頼主に苦言を呈しつつ、仕事を冷静にこなす。しかしある犬を生かした時、事態は一変する…。
動物の権利や命の価値、そして人間の愚かさを冷徹に描く衝撃のハードボイルドである。70~80年代のクリント・イーストウッドやチャールズ・ブロンソンらが正義の銃をぶっ放すジャンル映画に傾倒したという監督だが、自ら手掛けたハードボイルド作品には現代にふさわしい倫理観を意識的に盛り込んでいる。裏で動物を安楽死させるアンチヒーローの正義とは何か、そしてハムラビ法典的報復の果てには何が待っているか、あるいは、物語に絡んでくるネオナチ青年の存在は時代の必然なのか。サスペンスフルなドラマ進行の向こうに、監督はこれらの問いを投げかけてくる。見事な存在感で映画を圧倒する主演のマッティ・オンニスマーはフィンランドで引っ張りだこの名脇役だが、主演は本作が初めて。10年前からオンニスマーのカリスマ性に惚れ込んでいた監督がようやく彼にふさわしい脚本を手にし、互いの念願を果たした。