とうに盛りを過ぎたドサ廻りの2流プロボクサーが、欧州チャンピオンの練習相手に立候補する。愛する家族と、自身の引き際のために…。『アメリ』のマチュー・カソヴィッツが顔面を腫らし、敗者の美学を貫く男を爽やかに演じる感動作。
エポックメイキング的作品となった『憎しみ』(95)の監督として一躍仏映画界の寵児となり、記録的ヒットの『アメリ』(01)でヒロインが恋する相手を演じ世界中の女性を魅了したM・カソヴィッツも、今年で50歳。家族のために体を張る2流ボクサーを熱演しているが、カソヴィッツ自身が本格的にボクシングに入れ込み、本年6月にアマチュアのリングにデビューを果たしている。一方で劇中のボクサー、エンバレクを演じるS・ムバイエは第32代WBA世界スーパーライト級王者である。確かな配役でボクシング映画としての骨格を固め、本職はミュージシャンのO・メリラティが実に魅力的な妻を演じて映画に深みをもたらす。勝つだけがボクシングか? 敗者の美学と家族愛に溢れた本年指折りの感動作である。