1929年のオーストラリア。白人の退役軍人が粗暴な振る舞いの果てにアボリジニの使用人サムに殺される。サムは身重の妻を連れて直ちに逃亡するが、やがて追っ手が迫る…。
愚かな人種差別をモチーフにした、豪州発の新型ウェスタン・ドラマである。砂漠の中に建てられた町や、保安官、酒場など、アメリカの西部劇でおなじみの光景が繰り広げられる作品ではあるが、物語が「インディアン」の立場から語られる点で大きく異なる。アボリジニは厳密には奴隷ではなかったが、入植者に無料の労働を提供し差別的な法に縛られていた。自身がアボリジニであるウォーリック・ソーントン監督は、サムの物語は自分たちの祖父の物語であり、アボリジニの全家族が共有するものだと語る。監督は人種差別を単純悪として処理せず、当時の社会システムの現実を慎重に描き、悲劇の歴史を語り継ぐ。一方、従来の西部劇との共通点としては広大なランドスケープの存在があげられる。オーストラリアの荒涼たる大砂漠は、大スクリーンを圧倒するだろう。ヴェネチア映画祭のコンペティション部門に出品され、審査員特別賞を受賞した。
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